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もし芸人に不思議な力があったら2

1 :名無しさん:05/02/10 19:26:11
現まとめサイト
http://geininstone.nobody.jp/


・芸人にもしもこんな力があったら、というのを軸にした小説投稿スレです
・設定だけを書きたい人も、文章だけ書きたい人もщ(゚Д゚щ)カモォン!!
・一応本編は「芸人たちの間にばら撒かれている石を中心にした話(@日常)」ということになってます
・力を使うには石が必要となります(石の種類は何でもOK)
・死ネタは禁止
・やおい禁止、しかるべき板でどうぞ
・sage必須でお願いします
・職人さんはコテハン(トリップ推奨)
・長編になる場合は、このスレのみの固定ハンドル・トリップを使用する事を推奨
 <トリップの付け方→名前欄に#(半角)好きな文字(全角でも半角でもOK)>
・既に使用されている石、登場芸人やその他の設定今までの作品などは全てまとめサイトにあります。
書く前に一度目を通しておいてください。

48 :新参者 ◆2dC8hbcvNA :05/02/15 13:24:03
せっぱ詰まった状況が続くテレビの仕事とは違い、営業の予定にはある程度の余裕が組み込まれている。
そのせいで予定より早く仕事が終わってしまい、空間には退屈の種ばかりが蒔かれていた。
それらが育って花を咲かせるころ、自分の世界に閉じこもっていた菊地が我を取り戻す。
コンビごとに分けられた楽屋は彼にとっては好都合だった。
誰かいたとしても特有の人懐っこさで乗り切れるが、
安定していない正義感を持つ芸人がやってくる予定なので周りと世界が分かれている方が都合良い。
まだ名前も知られていないのであまり強くないだろう。彼が高を括る理由の一つに高水準な能力がある。
水を操るアイオライトだけでも十分侵攻可能な上、具現化が出来るツァボライトまで保持している。
二つの能力を持つ人物は少ないだろう、欠点が見当たらないなら誰でも恐怖が掠れてしまうものだ。
それに他人に影響されない菊地自身の性格と、独特すぎた極端な思考回路を足せば跡形も無く消える。
決して他人には着こなせない細みのジャケット、
半端な位置に付いているポケットからメモ帳を取り出した。
使い慣れた鉛筆を握って絵を創ろうとしてもイメージが浮かばない。姿形があれば何でも構わないのだが。
最終的に目を付けたのは、ある意味一番近い場所にいる二つの石だった。
ちぎったメモ帳を絨毯代わりにして無秩序に並べる。消して華美ではないが人を魅了する光があった。
しかし菊地は引き込まれずに、慣れた手つきで鉛筆を動かす。
何を描いているか判断出来る位になったころだ。急に響いたノックが人の気配を連れてきたので、
落ち着いた態度で石を隠す。
返事を待たずにドアを開けたのは予想通りの相手で無作法に燃えた敵対心が険しい顔に浮かんでいた。

49 :新参者 ◆2dC8hbcvNA :05/02/15 13:24:43
名前を知らない相手に興味を持つ可能性は少ない。相手を探ろうともせず傍らのペットボトルに手を伸ばす。
「黒だって事は知ってます」
動揺させようとしているのだろう、真剣な顔だが少し余裕がある。情報の漏洩具合はもう分かっている、
それよりも敬語を使われるくらい芸暦が伸びたことを実感した。
「どういう力?」
「え」
「目立つなら場所変えるよ?」
淡々と必要事項を確認されて恐怖したらしい。相手の顔が強張り後悔が滲む。
残りの水を一息に飲みきってから、ポケットに鉛筆とメモ帳を忍ばせ、廊下に出るドアに手を伸ばす。
すれ違う寸前に水を作り出した。ほぼ立ち尽くした状態でいた相手の首もとに右手を翳し、
鋭利に凍らせた氷を喉にあてる。
血は出ないもののある程度の痛みは伝わったらしい、男は顔を歪めて目を合わせてきた。
「石使わないままだったね」
一歩間違えれば人殺しになる状況でも普段通りでいる菊地は、例え外見が弱そうだとしても迫力はある。
空気に飲まれた男は動けずに解放だけを待っていた。
「どうしてここに来たの?」
「相方が急に変になって、だから」
会話を中断せざるを得なくなる。廊下側から、遠い足音と芸人らしい笑い声が聞こえてきたからだ。
水の刃を蒸発させてから鞄を持ち、抵抗する気力さえ失った男と目を合わせた。
「やっぱり場所変えよう」
従わなかった場合どうなるかは言わずとも伝わる。項垂れた男は先を予想しながら頷いた。
水を補充したペットボトルを鞄に入れてからドアノブを開ける。
「あ、お疲れっす」

50 :新参者 ◆2dC8hbcvNA :05/02/15 13:25:43
挨拶されて後ろを向くと、やはりあまり名前を知られていない芸人が頭を下げていた。
反応を返してから表情の暗い男を連れて進もうとするが、
廊下の奥にあった姿が気になって動きを止める。
主に大阪で活動している二人組は全国でも知られた芸人だった。
菊地は彼らが白に属しているのを知っている。
能力までは認知していないがわざわざ衝突する相手ではない。
気づかれないうちに身を翻して短い廊下を歩いた。
外は既に暗く、半月が辺りを照らしている。寿命に近づいた街灯が点灯を繰り返す姿は蛍に似ていた。
隠れていない星空の下、奇妙な組み合わせの二人組が歩く。
石を持っている芸人同士の戦いでここまでローテンポなものは珍しいだろう。
眠たくなるバラードより遅い変拍子の中、恐怖を克服しつつある男が目つきを粗げていた。
突然懐に手を入れて、隠し持っていたナイフを向けてくる。
「物騒な物持ってるんだね」
男が更に恐怖を募らせた。首の後ろに留めるはずだった刃の周りを水で包み込み、
丸みを帯びた形で凍らせて何も切れなくしたからだ。溶けない氷に絶望した男は抵抗を止めた。
一番背の高い建物と建物の間、弱々しい街灯が一人で辺りを照らし、温い風が通っていた。
辺りに誰もいないのを確認してから男の顔を覗き込む。もちろん首には氷の刃を翳して、
唾を飲んで上下する喉仏の上に傷がついたのを確認してから交渉を始めた。
「どうして黒が嫌なの?」
「他の芸人を傷つけてるじゃないすか」
「俺は白が同じことしてるのを何度も見てきてるけどね」

51 :新参者 ◆2dC8hbcvNA :05/02/15 13:26:26
男が目を見開いた。更に畳み掛ける。
「君の相方もそれを知って黒に入ったのかもよ。だから君がこっちに来るのを望んでいるかもしれない」
「でも辛そうにして」
「相方だけ別行動取ってるのは悲しいね。しかも君は白寄りだ、正反対のことをして楽しいはずがない。
 大体白が何もしてこなければ争いもないかもしれないんだよ。
 黒だけになれば安定する、そうだ、それを分かって俺を襲ったの?」
訛った早口での質問が勝手なのは誰にでも分かる。でもどうでもよかった。
「相方を支えてあげないと」
だから心臓を抉る意見も堂々と口に出せる。
体を引いた男は、刃から離れているにも関わらず何もしてこなかった。
「黒がなくなればいい」
もう終わりだったはずが予想外に意志が固い。
素直に説得されておけばいいものを、だから痛い思いをする人間が増えるのだ。
呆れて物が言えなくなる前に自身を奮い立たせ、手に持っていた氷を溶かす。
チャンスと勘違いして顔を明るくした男の両目に水を飛ばした。
視線を失って戸惑う男が手を顔に当てる前だ。目の水分もろとも凍らせれば、相手は激痛でしゃがみこむ。
随分愉快な姿だ、氷で仮面を創ろうか。
高揚する気分の中で相手を降伏させる方法を考える。出来るだけ残酷に、
そうすれば歯向かう気力さえ無くなるはずだ。あれこれ想像を巡らせて、最終的にいい案を思いついた。
自らの顔が歪んでいるのが分かる。
異様な笑顔を浮かべていたかもしれない、ポケットの石が暗い光を放っていたから。
作り出した水を無理矢理相手の喉に通す。咳き込んでも流れる水が途中で凍ればどうなる?
喉を掻き毟る姿を想像して笑みがこぼれた。昔はあまり楽しめなかったはずなのにも関わらず。

52 :新参者 ◆2dC8hbcvNA :05/02/15 13:27:09
右手を相手の首元に当てる。脈を流れる血液が操れれば面白いことになったかもしれない。
起こらない仮定を考えているうちに、喉元に留まる水を感じた男が顔を引きつらせた。
今までで一番の表情だ。力を込める。
「それはあかんやろ」
背後からマイペースな声が届いたかと思うと、振り向いてすぐの頬に何かが掠った。
菊地の足元に作られた小さな水溜まりから何か伸びている。
形を確認する前に足を取られ、バランスを崩して倒れ込んでしまった。
足に絡むのは奇妙な植物の蔓だ。乱暴に振り払ってから声の主を確認した。
一番関わりたくなかった相手だ、しかも二人揃っている。
「何しとるんやお前!」
耳に響く高音が緊張感を壊した。普段からあんな調子だったのか。よく見知った姿を二つ見渡す。
のんびりとして自己中心的にぼける平井と、相反した高いテンションでつっこむ柳原。
アメリカザリガニとして活動する二人には別々の個性があった。多分能力も違うタイプだ、
植物を生やしたのが平井だろうか。
倒れたままの男は放って、鞄に入ったペットボトルを取り出した。500mlを半分飲むだけに留める。
人目に付かない場所にしたのが失敗だったようだ。展開は急がずにこっちのペースを作ろうとした。
「襲われそうになったので」
「そんな風には見えんかったけどなあ。そやろ?」
平井が穏やかな笑みを浮かべ、柳原に同意を求める。
「今までで一番の嘘吐きや」
逆に真剣な柳原が呟いた。

53 :新参者 ◆2dC8hbcvNA :05/02/15 13:29:48
「石は真っ黒やし、お前、どろっどろやで」
どろどろが何を指しているのか分からなかったが能力の見当はついた。
少なくとも戦える石ではない、真意を見抜くとか、頭脳戦でしか使えないものだろう。
一対一と同じようなものだ、これなら勝てる。
調子に乗って能力を使いすぎていることが気になったが、すぐに終わらせば大丈夫だろう。
話で終わらせようとしている相手の虚をつく。狙うのは無防備な柳原だ。
伸びる水を投げ、氷よりも鋭く一直線に尖ったそれと同時に一気に距離を詰めた。
植物が水鉄砲を弾いたのは予定通りだ。相手の死角に入った左手でナイフを作り、
柳原に向かって投げた。急所に当たらずとも激痛は走るはず。
長く伸びた植物が枝分かれする。血を生むはずの透明なナイフが掴まれた。
想像したより戦い慣れている、衝撃を予想して身を固くしたが強すぎた打撃に吹っとばされた。
しゃがんでいるがすぐ対抗できる体勢で相手を見上げる。
棒状に編み上げられた蔓は鉄パイプほどの強度を保っているようだった。
「ヤナ、下がっとれ。こいつ正気や無い」
「わかっとる」
見当外れに笑いたくなった。柳原が下がる前に水を投げようとしたが阻まれるのは分かっている。
曲がりくねる植物をどうにかするために水を刃状に変えた。本当は長刀を作りたかったのだが足りない。
地面に落とされた水のナイフが戻ってくれば少しはましになるのだが。
少し息が切れていた。幸いまだ熱は出ていなかったがあまり長くは戦えないだろう。
菊地達の本業は戦いではない、
今日の仕事は終わっているが芸人としての義務を果たすため体力を残す必要がある。

54 :新参者 ◆2dC8hbcvNA :05/02/15 13:30:58
「早く終わらせませんか?」
争いのペースを早めるための挑発だ。向こうもせっぱ詰まっていたようで、
ほぼ一定の位置にいた平井が距離を詰めてくる。変幻自在に伸びる植物は刃だけでは対応しきれず、
切り落とした断面から伸びる蔓に腕を掴まれた。持ち替えた刃で切り落とすより早く腹部に衝撃が走る。
「痛い目見んとわからんようやからな」
呟く平井の声に躊躇いが混ざっていたのを菊地は聞き逃さなかった。白は直接傷つける勇気がない、
だから蔓で殺そうとせず足で蹴るだけで留まったのだ。
こっちに躊躇はない。
植物を操っている方の肩に刃を突き刺した。呻き声と呼ぶには大きすぎる音量で平井が腕を掴む。
相手が流す血は放って、手にしていた刃を数十本の鋭い針状に変えてから、容赦無く平井の体に投げた。
串刺しになったのは平井の体ではない。急に現れた盾状の植物がすべての針を受け止めている。
驚く暇が惜しい、平井の横に向かってから残しておいた水で杭を作り、怪我した肩を抉った。
相方を救う為向かってきていた柳原を凝視。
異様な迫力にされて怯んだ隙にすれ違い、固めたままにしておいた水のナイフを拾い上げる。
身を翻してナイフは右手に持つ。
もし菊地が落ちたナイフを普通の水に戻していたら勝負はついていただろう。
平井が肩を抱えて休憩を取っている間にペットボトルの水を飲み干す。
水の飲みすぎで気持ち悪かったがまだ耐えられる。向こうが動けない間に勝負を付けなければならないのだ。
出来るだけ細く鋭い線を作り出した。足の一本に穴を開ければ動けなくなるだろう。
平井も菊地の思考を汲んだらしく、見てはいけないものを見るような顔で菊地と目を合わせた。

55 :新参者 ◆2dC8hbcvNA :05/02/15 13:31:57
水状のままにしておけば多少の伸縮は可能だ。二本の線を一本に見せかけてある、
仮に避けられたとしても一本を体側に伸ばせば致命傷、片側の足を貫通して二本目の足が刺せれば終わりだ。
頭の中で策を確認しながら地面を蹴る。十分な休息を得ていない平井が、苦痛を滲ませながらも対峙する。
線を低い位置で刺そうとすると、予定通り平井が横に避けようとした。
「あかん、相手の背中回れ!」
やかましいが的確な柳原の指示のせいで平井が背後に回ってしまった。
菊地自身の体が邪魔で水の線を伸ばすのが遅れる。水を脇差程度の刀に変え、
振り返りながら相手を切りつけようとするが遅い。
刀を持っていた手に植物が這い巡り、強く握られたせいで刀を落としてしまった。
「もうええやろ」
大きな息切れを繰り返す平井が切り出す。
落ちた刀を左手で拾い上げて対抗しようとしたらそっちの腕も掴まれた。
平井は怪我した方の手を使っているはずなのに動けない。
「何がお前をそうさせたんや。相方狙われとるのか?」
菊地が正気でいるにも関わらず狂人に対するような態度だ。
どこまで勘違いすれば気が済むのだろう、抑えきれなかった笑みがこぼれる。平井の顔が引きつった。
「黒に操られとるんやな。早よ治さんと、石出せや」
「操られてなんていませんよ」
笑みを浮かべたまま否定する。
ため息をつく平井が柳原を呼んだ。仲介するような位置に立った柳原が眉を寄せる。
「嘘やない」
「……気づいてないんや」

56 :新参者 ◆2dC8hbcvNA :05/02/15 13:32:45
細い目を見開き、平井が驚愕を露にした。どうして誤解したままなのだろうか、
操られていないと言っているのに。不思議に思った菊地が首を傾げる。
「ええか。分かっとらんかもしれんけど、お前は黒に支配されてる。このままやったらまずいことになるで」
「まずいことって何ですか、人を殺すとか?
 流石にそこまではしませんよ、自分の意志でやってることですから。
 それよりそっちは白でしたよね、黒を負かそうとしてるんでしょう、
 やってることはこっちと一緒じゃないですか」
上下しない感情に乗せて早口で捲し立てた。何かにすがるようにした平井が柳原と顔を合わせる。
「全部本心や」
彼は嘘を見破るらしい。信じきった平井の表情が証拠だった。
草に掴まれていた右腕は相変わらず動かないが、怪我した手に掴まれた左手はそろそろ動かせそうだ。
握力が弱くなってきている、能力の代償である高熱の気配があるか確かめてから状況の確認をした。
落ちた刀は足を伸ばしても届かない。一応形を保ったままにしてあるが、
違う形にするには力の消費量が激しすぎる。水の遠隔操作は難しいからだ。
一旦思考を止めた。考えるだけなら意識を読まれない、相手を欺こうとすれば見破られてしまう。
ばれても大丈夫な純粋な作戦を考えた。力に頼るしかなかった。
左の指先から平井の目に水を飛ばす。緩くなった左手の拘束を振りほどき、
代わりに伸ばされた柳原の手を避けた。何とか拾い上げた刀で右手を拘束する植物を切断し、
本体から離れて弱くなる草達を払いのける。刀を下から上に振り上げようとした。
目の前が揺れる。倒れないように頭を抱えたが大きな隙が出来る。

57 :新参者 ◆2dC8hbcvNA :05/02/15 13:33:38
ここぞとばかりに体を突き飛ばしたのは柳原だ、特別な能力は無いがかなりの衝撃で、
ある程度距離が離れてしまった。体勢は戻せたものの最大のチャンスが逃げる。
額に手を当てる。そろそろ熱が出始めていた。刀は構えるが壁に身を凭れる。
平井もある程度疲れているらしく、急に向かってくることは無かった。
あの状態では俊敏な動きは出来ない。菊地も動きは遅かったが、水なら速く動かすことは出来る。
刀を液状に戻して手元に留めた。地面に流れることは無い。
「もう疲れたわ」
平井が肩を叩き、呆れたように呟いた。次に真剣な表情に戻り、左手の植物を成長させようとする。
武器として形を成してしまう前に、柳原に向かって水を飛ばした。背中の壁を押すことで勢いをつけ、
自由の利かない体で向かう。
守るはずだった柳原を放って平井が向かってくる。水鉄砲は綺麗に避け、棒状の植物を振りかぶった。
頭をかばうため右手を翳すが打撃が無い。
強制的にすれ違い、有り得ない方向から伸びた植物が首に巻かれた。
植物の根元を目で追う。左手で持った棒ではない。濡らした血液を原料にして、
平井の肩から植物が生えていたのだ。さっき肩を叩いたのは種を仕込むためか、
根は張っていなかったらしく、平井が肩の植物に持ち替えて握りしめる。
後頭部の方へ引っ張られて息が詰まる。床に衝突するのは時間の問題だ。
虚を突かれたせいで対応しきれず、倒れた後に戦える可能性を考えた。無理をすればいけるかもしれない。

58 :新参者 ◆2dC8hbcvNA :05/02/15 13:34:31
突風が吹いた。耳を掠る風の音で、失いかけていた意識を取り戻す。
衝突するはずだった床にゆっくりと落ちて、誰よりも知っている気配を感じた。
平井も柳原も数メートル先に飛ばされたらしい。人より軽い植物は更に遠くへ消えた。
第三者の介入が遅れる、いるはずなのに姿が見えない。
空から床を蹴る音が落ちてきた。三人が上を向くと飛び降りる男の姿。
屈む菊地と平井達の間に空いた広い空間に衝突する寸前、強い風で衝撃を拡散して綺麗に着地する。
どこにでもいそうな風貌だが菊地が間違えるはずがない。
「大丈夫か?」
茶色の髪を揺らし振り返る、いつもここからの山田が明らかな怒りを浮かべていた。
相方からの純粋な怒りが怖い、こちらに向いているのだろうか。
「このタイミングに援軍て」
ゆっくりとした声だから平井が呟いたのだろう。限界ではないが相当疲れているらしく、
殆ど力を使っていない山田に対して苦笑いを浮かべていた。山田の目つきが険しくなり、
現状況だけで判断した怒りを平井に向ける。
「何でこんなことするんですか」
菊地が黒である事を知らないのだ。急に介入してきた誤解は相手を困らせるのに十分だった。
「俺らはただの芸人なのに」
続く悲しそうな声色に反応したのは柳原だ。山田と同じように悲しみを浮かべて前に進み出る。
山田は自分から危害を加える人間ではない、カウンターを食らわないよう風の流れを確かめるだけで止まる。

59 :新参者 ◆2dC8hbcvNA :05/02/15 13:35:14
「先手え出したのはそっちや」
「嘘つかないでください」
「嘘ついとるのはあいつやで。俺は石で嘘が分かるんやから」
「菊地はそんなことしない」
「黒に囚われとるんや。お前が気づいてやらんと」
山田が振り返り目を合わせてくる。信じたくない、そんな光が浮かんでいた。
黒なのがばれたらどうなる? さっきの男のように相反して、山田を失うかもしれない。
それだけは嫌だ。
「逆だよ」
一番の嘘吐きと言われたのだ。ならば役目を突き通してやる。
「誰よりも上手く嘘をつける」
例え真実だとしても信じられなければ意味がない。古代に記されたギリシャ神話でも、
未来を知る事が出来たが信じてもらえない女性がいた。彼女は絶望の未来を知りながら何も救えなかった。
「大概にせえ。そんなことして楽しいんか」
「こっちの台詞です。俺だけならいい、なんで山田まで騙そうとするんですか」
「お前がやっとるんやろ!」
「いい加減にしてください」
向こうが声を大きくすればするほど有利になる。間に立った山田が臨戦態勢で構えた。
目を見開いた柳原が菊地のポケットを指差して叫ぶ。
「違うなら汚れてない石見せてみいや!」
言葉ならいくらでも騙せる。けれど物は違う、一瞬体が震え、ポケットの中に手を突っこんだ。

60 :新参者 ◆2dC8hbcvNA :05/02/15 13:36:20
握った石が暗く光っているのは知っている、布越しだから伝わらないだけだ。
山田が見ている。何にも関わっていない透明な目線が責めているようだった。
後ろめたい気持ちを隠すためもう一つの手をポケットに隠すと、触り慣れた感触がかさりと音を立てる。
嘘の証拠が見つかった。口元を歪ませないように耐えながら、絵が描かれたメモ帳の切れ端を握る。
本物の石が発する光が洩れないよう右手で包み込んでから、ツァボライトの光を思い浮かべた。
「何でや」
次の瞬間の状況はこうだ。
柳原は信じられない様子で息を飲み、後ろで怪我の痛みに耐えていた平井が目を見開く。
一瞬だけ安心した山田がアメリカザリガニの二人を失望の眼差しで見つめ、
左手を差し出した菊地が堪えきれずに口端を吊り上げた。
掌に乗っていたのは本来の光を偽った二つの石。相手に知らされてない能力で作り出した偽物だ。
勿論山田は菊地の具現化能力を知っているが、絵を描かないと出現させられない欠点も知っていた。
そして、菊地は石の絵を描いたことを知らせていない。
「偽物や」
いくら柳原が真実を告げても届かない。当たり前だ、相方を信じたくない人間がどこにいる?
仲が悪いならともかく、周知の事実としてお互いを好いている彼らが疑い合えるはずがない。
「休んででいいよ」
優しい笑顔が菊地の感情のどこかを握り潰す。初めて眉を寄せた菊地の動揺が伝わることはなかった。
それがいいことなのか悪いことなのかは分からない。
渦巻いた風が山田の体を包み、空気の動く音が建物同士に反射しながら空に昇った。
舞い上がった木の葉が夜空の星に焦がれた時、容赦ない風の塊が走る。

61 :新参者 ◆2dC8hbcvNA :05/02/15 13:37:02
浮いた柳原を受け止めた平井もろとも吹き飛ばすために第二の風を放つが、
角度をつけた植物の盾が風を拡散させた。
柳原を後ろに引かせてから、植物を握って山田の方に向かってくる。
近づけるはずはない。風を刃状に変形させれば植物の盾でさえ壊れる。
上下に分かれた盾を風で飛ばすのと同時に、自らを風に乗せた山田が慣性の法則を利用し、
いつもより破壊力のある拳を平井のみぞおちに打ちつけた。
会得した空手に加えた衝撃を食らえば正常な大人でもかなりのダメージだ。
その上菊地に攻撃されていた平井にとって決定打になるのは当然だった。
体力の限界は越えているはずなのに。
平井は倒れず、変わらない目つきで、山田越しの菊地の内面を覗き込む。
傍観者に成り下がっていた菊地は自嘲し、声を上げて笑いそうになるのを必死に堪えていた。
「楽しそうやな」
いつのまにか横に立っていたのは柳原だ。平井が落とした棒状の植物を持ってはいるが、
戦おうともせずに菊地を見下ろしていた。笑みを消した菊地は睨むわけでもなく相手を見上げる。
「相方騙しとるのに」
「質問していいですか?」
「は?」
「人を騙すのが好きなんですか?」
「嫌いに決まっとるやないか!」
「俺もです。だったらわかるでしょう」
楽しんでないことくらい。続く言葉を胸にしまい込む。
ため息をついた柳原は、顔に後悔を滲ませながら、手に持った棒を振り上げた。

62 :新参者 ◆2dC8hbcvNA :05/02/15 13:37:53
熱でぼやけた頭では対応出来ない。山田もこっちの状況には気づいていないようだ。
非現実的な世界で次の場面を待つ。
高く上がっていた棒が根元から切断され、長い方が地面に引きつけられた。
ゆっくりと落ちる棒は手を伸ばしても届かない。
かすかに残った精神力で作り出した水を伸ばし、木に巻きつけて引き寄せる。
状況を理解していない柳原の頭に少し短くなった棒を叩き付ける。意識を手放そうとする柳原は、
倒れる寸前、菊地の持つ平井の武器を凝視した。相方の武器でやられた彼は感情を潰されていたはずだ。
横たわる柳原を見ないようにして、平井と対峙する山田の元に向かう。
棒が切断されたのは山田の所作だ。証拠に、壁に痛々しい鎌鼬の跡が残っていた。
お互いが強いから本当に必要なときだけ助ける。相方の力を信じ、暗黙の了解としていた。
構い構われる能力でなくて本当によかった。アメリカザリガニのような関係で、
しかも菊地が攻撃出来ない立場だったら、何も出来ない責任感に押し潰されてしまっただろう。
山田と違って格闘技をやっているわけでもないので肉弾戦も不向きだ。
信じているからこそ放っておける、この微妙な感情を誰かに分かってもらえるだろうか。
風は草を刈るだけに使い、あくまで生身で戦おうとする山田。
対して、防御しきれないからしかたなく植物を使う平井。
疲れを滲ませた平井が柳原の様子に気づいたのは数秒経ってからだ。
「ヤナ!」
攻撃する対象を無視して柳原の方に向かう。意識がない柳原の傍らにしゃがみこみ、
すぐそばにある植物の棒を確認した。今まで怒りを隠していた平井が、
無作法に菊地を睨み歯を食いしばる。立ち尽くす菊地に向かって植物を伸ばした。

63 :新参者 ◆2dC8hbcvNA :05/02/15 13:38:36
今までで一番強い風が菊地の肩を掠る。
吹き飛ばされたのは平井だけだ、確認してから振り返り菊地が息を飲む。
怒りの感情を持っているのは向こうだけではない。
相方を狙われたことで山田の何かが切れてしまったらしい。菊地でさえ怯む、
腹を括った表情が風に纏われ、伸ばす手は平井に向けられていた。
すぐに異変に気づく。植物ではつけられないはずの切り傷が山田の頬を走っていたのだ。
生々しく血を流したそれをよく見ると、破れた服の内側からも赤い傷が覗いていた。
突如の強い風に目を覆った菊地がまた見ると、首の横に真新しい傷が出来ている。
嫌な予感で鼓動が速まる。強力な力はいずれ身を滅ぼすのだ。
あまり欠点がないはずだった山田の力は、操作しきれないせいで主人の体を傷つけている。
くしくも二人の力は強すぎた。それでも菊地の方がまだ、殺傷能力が低かった。
二つの能力があるから欠点がなくなっただけだ。
山田の力は躊躇いさえなければ誰でも殺せる。鎌鼬を喉元に出現させれば終わりだからだ。
しかし彼はそれに魅せられずに自分自身の力を使っていた。与えられた力ばかり使う菊地とは違う。
箍が外れればどうなるかは誰にでも分かるだろう。
山田は菊地を守るために日ごろ抑えていた力を解放し、相方のために怒る平井と、
自らが傷ついても戦おうとしている。取り残されたのは菊地だけだ。
矛盾した傷を作り続ける山田を見て感情が動かないほど壊れてしまっているわけではない。

64 :新参者 ◆2dC8hbcvNA :05/02/15 13:39:46
ただ、彼は独特な感覚を持ちすぎていた。
すぐに意見を変えて状況を抑えようとしても感情の説明が出来ないだろう。
けりあげた罪悪感を再度手にするには決死の覚悟が必要になる。
てのひらは水や血で汚れて、受け止めるほどの強度を保っていなかったから。
彼の言い訳は誰にも届かない。なんとか最初の一文字が届いても反感を買うだけで終わりだ。
唯一理解してくれる山田が頼れないから自分だけで戦ってきた。
だから、今の山田を見ていることは出来なかった。
包まれた風を突破して山田の肩を掴む。数ヶ所が切られたが痛みはなかった。
熱でぼやける目線を無視しながら握る力を強める。
風が弱くなり辺りに静寂が戻った。月が傾き隠れたせいで光が弱い。辺りの壁には多数の切り傷があり、
巻き添えを食らった平井も額から血を流していた。
「これ以上手を出さないでください」
山田が口を開く。頬に流れる血を拭いながら右手を伸ばす。柔らかい風が平井を包んだかと思うと、
抉られたはずの右肩と割れていた額が完治していた。
風で怪我が治るとは思っていなかったのだろう、驚いた平井が肩を摩る。
浮かんでいた怒りが消えた。何か決心したようで、手に握る植物を握りしめた。
「そいつをそのまま帰すわけにいかん」
対象の菊地は熱にうなされて思考が鈍っている。だから平井の使命感にも気づかなかった。
現状況が早く終わるのを願うだけだ。

65 :新参者 ◆2dC8hbcvNA :05/02/15 13:41:04
「信じんでもええ、俺はそいつを元に戻したい。やから」
植物を構え、真っ直ぐな感情を向けた。
「戦う」
対して面識のない相手のため、何故ここまで体を張れる? 疑問が渦巻くが答えはない。
山田は少し戸惑ったようだったが、ため息をついて風を作ろうとした。攻撃する前に思いついた顔をする。
平井の体が浮き、数メートル離れた場所に運ばれた。綺麗に着地した平井の方に向かって山田が走る。
植物を構える平井の前で身を翻し、風で背中を押して菊地の方に向かってきた。
「後ろ向け」
言われた通りに背を向ける。肩の下に山田の腕が回され、足が地上から離れた。
抱えられるようにして空を飛んでいるのに気づいたのは、呆気に取られた平井が空を見上げていたときだ。
夜に隠れて姿は見えない。最高速度で空を滑降し、手ごろなビルの屋上に舞い降りてから辺りを見渡した。
都会よりも弱々しい夜景が近い。それ以上確認出来なくなった菊地がコンクリート上に座り込んでしまう。
駆け寄るわけでもない山田が不機嫌そうに顔をしかめた。
「何で勝手に行動した?」
何も答えられずに菊地は黙り込む。意識が朦朧としていて話せそうもなかったのもあった。
呆れたようにため息をつく山田は、自らの頭を撫でながらそっぽを向く。
このお人よしは。いつか切り出したおかしな会話にも調子を合わせてきたし、
聞きたいことが山程あるはずなのに尋ねてこない。
例え菊地の石が闇に包まれていることを知っても怒らないかもしれない。
屋上ぎりぎりに立って夜を見渡し、菊地が話し出すのを待っているだけだ。
急に振り向く。下からの自然な風にあおられて髪が揺らいでいた。

66 :新参者 ◆2dC8hbcvNA :05/02/15 13:41:45
「どんなことがあっても俺はお前を信じるから」
まるでそれが当然であるかのような気のない声色。菊地が反応するより先に近寄り、
建物内へ続くドアへ向かう。鍵が掛かっていたらしく数回ドアノブを回し、情けなさそうに頭を撫でた。
「飛んでくぞ」
指示された菊地が屋上の端に立つ。逆の端に立つ山田が助走をつけ、
先程と同じような体勢で空に飛んだ。風に呷られた菊地のジャケットが揺れる。
見下ろした街に落ちたのは偽物の石でも本物の石でもない。どこから出たか分からない水滴が一粒、
二人が確認しないまま消えていった。無表情な菊地の目線は霞んでいる。
久しぶりの後悔はくだらない考えでごまかす。
いつか山田の背中に羽が生えるかもしれないな、流石に天使の羽は気持ち悪い、
偽造した石を売ったらいくらになるだろうか、もし高く売れればいくらでも金儲けが出来る。
明日になれば忘れて同じことを繰り返すだろう。山田がいない場所ならいくらでも……
ぼんやりとした意識の中で予想できるのかが分からない未来を抱え、
ぎりぎりで意識を紡いでいた水の糸が、切れた。

End.

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