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もし芸人に不思議な力があったら3

1 :名無しさん:2005/07/27(水) 03:04:50
現まとめサイト
ttp://geininstone.nobody.jp/


・芸人にもしもこんな力があったら、というのを軸にした小説投稿スレです
・設定だけを書きたい人も、文章だけ書きたい人もщ(゚Д゚щ)カモォン!!
・一応本編は「芸人たちの間にばら撒かれている石を中心にした話(@日常)」ということになってます
・力を使うには石が必要となります(石の種類は何でもOK)
・死ネタは禁止
・やおい禁止、しかるべき板でどうぞ
・sage必須でお願いします
・職人さんはコテハン(トリップ推奨)
・長編になる場合は、このスレのみの固定ハンドル・トリップを使用する事を推奨
 <トリップの付け方→名前欄に#(半角)好きな文字(全角でも半角でもOK)>
・既に使用されている石、登場芸人やその他の設定今までの作品などは全てまとめサイトにあります。
書く前に一度目を通しておいてください。

351 :[東京花火−scene1] ◆yPCidWtUuM :2005/11/19(土) 23:41:38

もしこの推測が当たっているなら、あの小さな塊は、それなりに高価なもののはずだ。
あまり物欲がなく、金銭への執着も薄い井上のもとにそれがやってきたのはやはり運命と言うべきか。
もし自分だったらどこぞに売りにいったかもしれないが、井上はそれを綺麗な玩具程度にしか思っていない。
だからこそ、売ったりして手放そうなどとはきっと思わないだろう。

楽屋のテーブルの上、金色の塊をちょん、とおはじきのようにつつきながら井上が口を開いた。


「…これも、何か力あるんかな」
「どうやろ、俺のも何かあったりしてな」


河本は言いながら、テーブルに転がした自分の石をじっと見つめる。
綺麗な縞模様は何も伝えることなく静止したままで、答えなど出そうになかった。
見ているだけではどうにもならないので、とりあえずしまっておこうと手を伸ばす。
石を軽く手の中に握り込んだとたん、河本の拳の隙間から淡い光が漏れだした。

352 :[東京花火−scene1] ◆yPCidWtUuM :2005/11/19(土) 23:42:05


「な、何?」


驚いて手を開き、乱暴にテーブルの上に石を放り出す。それは橙色の光を放ちながらころころと転がった。
転がった先にあった井上の金色の塊は、河本の石にぶつかったと同時に、内側からふわりと光を放つ。


「うわ、光った!」


2人はしばし呆然と石の放つ光に見とれたが、輝いていた石はほんの30秒もするとその光を失い、
もとの姿に戻ったのだった。お互い無言のまま、石と相方の顔を交互に見やること数回、そして同時に言う。


「「…これ、何かヤバいで!」」


もはやここにある2つの石が、何か特別なものであることは疑いの余地がない。
だがしかし、これがどう特別なものなのかわからない2人はそのまま出番までの時間を悶々と過ごし、
本番中もそれを肌身離さず持ったまま、収録を終えて楽屋へと戻ったのだった。





353 :[東京花火−scene2] ◆yPCidWtUuM :2005/11/19(土) 23:42:57




…収録後の楽屋を、訪れる影2つ。


「よお」
「ちょっと邪魔するよ」


軽い挨拶とともに楽屋に入ってきたのは、2人が先ほどまで出演していた番組のMCであるくりぃむしちゅーの
有田と上田だった。最近共演する機会が増えてはきたものの、彼らがコンビで自分たちの楽屋を訪れるのは珍しい。


「どうもおつかれさんです」
「おつかれさんですー」


ふたりは少しばかりいぶかしく思いつつも、多くの番組を持つこの先輩コンビに礼儀正しく頭を下げた。
有田と上田はそれに「おう」などと簡単に応じる。その後、すばやく話を切り出したのは有田だった。


「あのさ、単刀直入に聞くんだけど」
「はい?」
「ひょっとして、石持ってねえか?」

354 :[東京花火−scene2] ◆yPCidWtUuM :2005/11/19(土) 23:43:56


見事と言うべき素早い切り込みに、返事をした河本は一瞬あっけにとられた。あまりといえばあまりに直接的な
質問だったので、返答に困ったのだ。石に何か特殊な力があるなら、簡単に持っていると答えてしまうのも
まずいんじゃなかろうか、と思った河本が迷っている間に、井上が代わりに答えてしまった。


「持ってますー」


のんびりした口調だが、これは重大な告白だ。河本は『ちょっと待たんかい!』と思いつつ相方を見やるが、
井上は何ら悪びれたところなく、いつも通りのきょとんとした表情で椅子に腰かけている。
返答を聞いた有田の方も、そう簡単に肯定の言葉がかえってくるとは思っていなかったらしく、ちょっと驚いた顔だ。
上田に至っては頭を抱えている。おそらく有田のバカ正直な質問で慌てたところに、さらにバカ正直な井上の返事が来て
打ちのめされたのだろう。河本はおおいに上田に共感した。


「上田、ほらやっぱ持ってるってよ!さっき共鳴したもんなー」
「…おう」
「何?何暗くなってんだよ?」


355 :[東京花火−scene2] ◆yPCidWtUuM :2005/11/19(土) 23:44:31


無自覚な有田とそれに疲れる上田に苦笑しつつ、河本は有田の言葉尻をとらえる。
『共鳴』とはいったい何のことだ?自分たちが石を持っていることが有田たちには伝わっていた理由は?


「あの、有田さん、『共鳴』って?何で俺らが石持っとるってわからはったんですか?」
「それはあれだ、俺らも石持ってるから。光ったんだよ」
「?は?」
「ああもう、有田代われ!…悪いな、ちゃんと説明するから」
「はあ…」


ため息まじりに有田を制した上田は、自分の石をとりだし、有田にも2人に石を見せるよう促して、
まず自分たちの石について簡単に語り始めた。河本の基本的な質問から、2人が石を手に入れたばかりで
何も詳しいことを知らないと察したらしい彼に、河本と井上は自分たちのもとに石がやってきた経緯を話す。
上田はそれにじっと耳を傾けてから、はじめは石の共鳴と力について話し、それから白のユニット、
黒のユニットについての説明をして、最後に自分たちが白のユニットに属していることを告白した。


「もしお前らの石の力が使えるものだったら、黒の奴らは自分たちの側にお前らをとりこもうとするだろうし、
 それができなきゃ倒して石を奪おうとするだろう。俺らはお前らに『今すぐ白に入れ』とか強制する気はないけど、
 できればお前らと戦うようなことは避けたいと思ってる。だからこうして話をしにきたんだ」

356 :[東京花火−scene2] ◆yPCidWtUuM :2005/11/19(土) 23:45:12


その言葉に河本は大きく頷いた。上田の話を聞いたところで、今すぐ白につこうとまでは思わないし、
逆に黒につこうとも思わない。わけもわからず戦闘に巻き込まれるのはまっぴらごめんだし、この2人の敵になる気も
さらさらない自分にとって、上田の言葉は至極受け入れやすいものだ。隣で井上も小さく縦に首を振っている。
そんな2人の様子を見て上田の話が終わったと判断したのか、今まで黙って話を聞いていた有田が、『待ってました!』
…とばかりに口を開いた。


「なあなあ、そんじゃさ、まだ2人は自分の石の力がどんなんだかわかってねえの?」
「はい、さっぱりですわ」
「なー、何なんやろな?」


河本は肩をすくめ、井上は河本と顔を見あわせて首を傾げる。石を巡る芸人たちの状況は理解したが、
自分たちの力がわからないことには何をどうすればいいのかさっぱりだ。そんな2人に有田は言う。


「まあでも、黒の奴ら来たら嫌でもわかるよ…ってお前らの力が戦闘に使えなかったらマズいな」
「もしどっちもそうだったら、攻撃系の奴に襲われたらひとたまりもないぞ」
「そっか、そーだよなあ…何か能力わかる方法とかねーのかよー上田」
「んなもん俺が知るか!…うーん、今までの奴らって大体みんなその場で石が発動してたしなあ」


357 :[東京花火−scene2] ◆yPCidWtUuM :2005/11/19(土) 23:45:38


有田と上田の2人は後輩の身の上を案じ、戦闘に巻き込まれる前に石の力を特定する方法はないかと考えを巡らせる。
そのとき、有田が突然「あっ!」と小さく叫んだ。


「お前の能力でこいつらの石の記憶読めばいいじゃねーか!」
「おいおい、俺の石じゃ記憶は読めても能力は…いや、前に持ってた奴が使った記憶があるかもしれねーか」
「そうだよ、石が覚えてるかもしれねーだろ」
「けど俺いくらなんでも見ただけで石の名前なんてわかんねーぞ?しかも蘊蓄まで言わないとなんねーし…」


ぶつぶつ言いながら上田は河本と井上にむきなおる。


「ちょっと見せてもらってもいいか?」
「あ、はい」
「どーぞ」


差し出しされた2つの石をしげしげと見つつ、上田は「あれ?」と小さく声を上げた。


358 :[東京花火−scene2] ◆yPCidWtUuM :2005/11/19(土) 23:46:51


「この井上のって、ひょっとして金じゃねーか?」
「あ、上田さんもそう思わはります?」
「…え、俺のって金なん?石やないんや」
「ああ、多分。まあこれも鉱物っちゃあ鉱物だしな…よし、こっちだけなら何とかなる」


そう言って上田は井上の金の粒に触れ、蘊蓄を脳裏から引っぱりだす。


「えー、金といえばみなさん、指輪やネックレスなどの装飾品としてお馴染みの貴金属ですが、
 これはおそらく人類が装飾に使った初めての金属だろうと言われています。古代エジプトの
 ヒエログリフでも金についての記述があるくらいでして…」


よどみなくつらつらと言葉を並べながら、小さな欠片に残った記憶を読みとっていく作業に入った。
その欠片の記憶は今朝の井上家の玄関、おろしたての靴の中から転がり出て井上とご対面したところまで戻ると、
それ以前は急に真っ暗になる。ただ、真っ暗な中で一瞬、誰かの右手が石にむかって伸ばされ迫る場面が、
映画のワンシーンのように閃いた。男の左手には何か、茶色い大きなものが握られている。
そしてその男の顔がノイズのようにさし込み、消えた。

…その顔は自分の記憶の中にある顔のひとつに重なる。とたん、男が左手に握っていたものの見当がつき、
上田はふっと笑った。石から手を離し、能力の代償である激痛が背中を走り抜けていくのに耐えてから、言う。


「ほとんど真っ暗だったけど、一瞬だけこの石に手を伸ばした奴の顔が…多分アイツ、何か知ってる」
「…アイツ?それ誰だよ上田」
「…ギター持ってた。波田陽区だ」


359 :[東京花火−scene3] ◆yPCidWtUuM :2005/11/19(土) 23:47:42




…さて時は数日前にさかのぼる。


その夜ギターケースを小脇に抱えた小柄な男は自宅前で、もはや幾度めかわからない黒の襲撃を受けた。
もっともその日の刺客の連中は、かなり強力な石を持っていたにもかかわらず、本人たちの実力が
石に見合っていなかったため、途中で石の力が本人たちにはねかえって自爆したので戦闘は早々に終了している。
さらに襲撃の場所が場所だったこともあって、波田は最後の力を振りしぼり、どうにか我が家の扉のむこうに
滑り込んでから力つきて気絶したのだった。

…そしてまさに今、玄関で自分の靴にまみれて目覚めたところだ。

玄関で倒れたせいであちこち打った体が痛かったが、まずはとにかく先ほど刺客から回収して握りしめたままだった石を
しまっておかないと、と手を開く。その手のひらには小さな石が1つのっていた。

…1つ?

おかしい。自分はさっき、3人に襲われたのだ。そしてそいつらは1つずつ石を持っていた。
ならば回収した石の数は3つであるべきなのに、1つしかない。まさかうっかり回収し忘れたのだろうか?
いや、そんなはずはない、確かに自分は連中から石を回収したはず…と、そこまで記憶をさかのぼったところで、
波田は自分の記憶の異常に気づいた。


360 :[東京花火−scene3] ◆yPCidWtUuM :2005/11/19(土) 23:49:50

そうだ、自分はこの手の中にある石をまず拾って、それから次の石に手をのばしたはずだ。
そのあと…そのあと、どうなったのだろう?おかしなことにその先の記憶がすっぽり抜け落ちている。
どうやって自分はこの玄関までたどり着いたのか、それもなんだか曖昧だ。

手の中に残ったのは、変わった光を放つ透明な石のみ。ひょっとしてこれが何か力を発したのだろうか?
かるく握ってみると、何となく自分と波長が合うのを感じる。これを拾ったとき、まだ自分の石、ヘミモルファイトの力が
切れていない状態だったから、波長の似ていたこの石の力を自分が引きだしてしまったのかもしれない。
光にすかしてみると、透明な石の中でちらちらと虹色の光が踊る。戦闘の際に刺客がこの石を使っていた様を
思い出してみようとするのだが、この記憶にもまた靄がかかっている。

波田はあきらめのため息をつき、あまり成果を見ることのなさそうな思索に終止符を打った。
この石を持ち歩くのは気が進まない。かといって自宅においておくには敵の多い身だし、まさか捨てるわけにもいかない。
気休めにしかならないが、今まで回収してきた他の石とは分けて布に包み、持ち歩くことに決めた。






361 :[東京花火−scene4] ◆yPCidWtUuM :2005/11/19(土) 23:50:36




井上と河本は珍しく、2人並んで帰途についていた。


それなりに仲はよくとも、普段はプライベートを異にしている2人がこうして一緒に帰ることにしたのは、やはり今日楽屋で
聞かされた話が気にかかったからだ。結局2人の石の力は不明なままだったが、だからこそなおさら襲撃を受けたときの
不安が大きい。上田と有田が波田陽区に連絡をとってみると言っていたので、近日中に少しは事態が進展するだろうが、
今現在心細いのに変わりはない。2人いれば運良くどちらかが戦える能力を持っているかもしれないし、少しは
マシだろうということで今に至る。

夕暮れの陽がさし込む局の廊下をとぼとぼと歩きながら、河本がぽつりとこぼした。


「…どーなるんやろな、これから」


井上はそれに答える言葉を持たなかったので、2人は無言のまましばらく廊下を進み、エレベーターに乗り込んだ。
他に誰も乗っていない小さな動く密室の中、井上はやっと口を開く。


362 :[東京花火−scene4] ◆yPCidWtUuM :2005/11/19(土) 23:51:00


「なあ」
「ん?」
「この先な、どーなるかわからんけど」
「…おう」
「何かな、俺ら頑張ったらええと思う」
「…」
「それでええと思う」


河本は少し黙って、それから、


「…そうやな」


と小さく笑って呟いた。






363 :[東京花火−scene5] ◆yPCidWtUuM :2005/11/19(土) 23:51:40




ここは都内のとある居酒屋の個室、顔をつきあわせているのは2コンビ1ピン、計5人の芸人だ。

くりぃむしちゅーと次長課長とギター侍。つまりは有田、上田、井上、河本、そして波田。
有田と上田が波田に渡りをつけて実現した顔あわせである。



運良く井上と河本が黒のユニットに襲われることはいまだなく、石の能力も不明のまま2日がすぎていた。
波田の手元に残った例の石もその後特に発動することはなく、抜け落ちた記憶も戻っていない。
井上たちにはこの会合に顔を出す以外、選択の余地がなかったし、波田も上田たちの話を聞いて自分の拾った石と
何か関係がありそうだと思い、気になってここに足を運んだのだった。3人それぞれがぼんやりとした不安を抱えたまま、
有田の言葉で会は始まる。


「んじゃ始めよーぜ…まず波田、聞きてーことがあんだけど」
「はい」
「井上が持ってる石の記憶を上田が力使って探ったら、お前がそん中に出てきたんだと」
「ええ、聞きました」
「お前はとりあえずアレだ、井上の石について何か知ってんの?」


364 :[東京花火−scene5] ◆yPCidWtUuM :2005/11/19(土) 23:52:11


あいかわらず単刀直入な有田の質問に、横の上田は苦笑している。
波田は自分のほうをうかがっている河本と井上の様子をそっと確かめながら、さりげなく井上の石の確認を要求した。


「あの、井上さんの石ってのは…」
「井上、見せてみ」
「あ、はい」


井上は手の上に金の粒をのせる。それをのぞき込み、もとより心当たりがなくもなかった波田は、その石に自分の姿が
記憶されていたわけをはっきりと理解した。


「…これ、俺が何日か前に拾おうとしたやつですね」


そう、井上の石は波田があの夜、2番目に拾おうとしたものだったのだ。
だが、その石がなぜ井上のもとに行ったのかまではわからない。


365 :[東京花火−scene5] ◆yPCidWtUuM :2005/11/19(土) 23:53:05

波田は諸々の状況から、この場での自分の立ち位置に関して判断を下すことにする。
白にも黒にもくみせずひとり動いてきた彼は自然に、過ぎるほどの用心深さを身に付けていた。
今日も収録もないというのに、不測の事態に備えて自らの武器となるギターを抱えてこの場に表れたほどだ。

 上田さんや有田さんは白ユニットに属している。彼らは井上さんの石のことで自分に声をかけるとき、
 自分たちの能力を隠そうとしなかった。こちらが黒ではないかと疑う様子のなかったところから考えて、
 おそらく自分が石を回収し、ふさわしい人間に配って回っていることは誰かから聞き知っているはずだ。
 話の出所はきっと川島さんあたりだろう。かといって白に勧誘しようという気もなさそうだし、河本さんと
 井上さんが自分の石の能力も知らないような状態である以上…

“この場で詳しいことを話したとして、自分が不利になったり、危害が加えられたりする可能性は低い”という結論を
出した波田は、あの夜に拾った透明な石をとりだして見せ、自分が黒いユニットに襲われたときの一部始終を
話して聞かせる。その話を聞いて少し考え込む様子を見せていた上田は、波田の持ってきた石を手にとって言った。


「話を聞く限りじゃやっぱり、この石が何か力を発揮したとしか思えないな。もしかして波田、お前が拾えなかった
 もう1個の石って河本のじゃないか?」


その言葉で河本がポケットからとりだした石に、波田は確かに見覚えがあった。上田の言う通り、これは波田を襲った
3人組の1人が持っていたものだ。


366 :[東京花火−scene5] ◆yPCidWtUuM :2005/11/19(土) 23:53:40


「間違いないですね、これは俺を襲ったもうひとりが持ってた石だ」
「…となると、お前が拾った石ってのは他の石を飛ばす力があるんかな?」
「他の芸人のところに、ですか?」
「多分、わざわざ井上と河本のとこに来たのはこいつらと波長が合ってるんだろ」
「言われてみればそうですね。俺、自分の石のせいか何となくその人にふさわしい石ってわかるんです。この2つの石は
 お2人とぴったり波長が合ってる…」


波田はそこまで言ってふと思った。この石は自分の望みを叶えたとも言えるかもしれない、と。
自分の望みは悪意を持って石を使う人間からそれをとりあげ、ふさわしい人間に渡すことだ。
井上と河本が持っている石は、もしあのとき自分が普通に拾っていたとしても、いつかどこかでこの2人に渡すことに
なっていただろう。それは自分の胸元のヘミモルファイトの意志でもある。


「けどさ波田、お前、戦闘のときの記憶もまるまる抜けてんのか?だったらこいつらの石がどんな力持ってるかは
 結局わかんねーままだな」


有田はちょっと残念そうにそう言ったが、波田はそれを否定した。


367 :[東京花火−scene5] ◆yPCidWtUuM :2005/11/19(土) 23:54:08


「いえ、記憶全部抜けてるわけじゃないんですよ。覚えてる部分もあります。少なくともこっち、井上さんの石は
 攻撃用じゃないです。戦闘中に後ろに下がってたから…ただ、そいつ確かこの石を発動しようとして失敗してたはず
 なんです。何だっけな、何かおかしなこと言ってたんだけど…」
「おかしなこと?」
「ええ、発動が失敗したときに…えーと、『凍る』とか何とか…」
「『凍る』…?何だそりゃ、何か冷やす系の能力なんかな?」
「さあ、そこまでは…。河本さんの石の方はちょっとよく覚えてないんです、すみません」


記憶が混乱している波田の話は要領を得なかったが、覚えていないものは仕方ない。
有田と波田のやりとりを聞いていた上田が、少し真剣な顔をして言った。


「波田、お前を襲った奴らが力足らずでこの石の発動に失敗して自爆したっていうなら、これは多分それなりの力が
 ある石だ。だとしたら黒の奴らはきっと回収のためにまた襲ってくると思うぜ。まさか石がこいつらのとこに来てることまでは
 わからないだろうから、お前がまた襲われる可能性は高いと思う。気をつけろよ」


上田の、自分の身を案じる言葉をありがたく思い、波田はうなずく。
こうしてそれほどの進展も見せることなく会合は終わり、5人は酒と肴に手をつけたのだった。






368 :[東京花火−scene6] ◆yPCidWtUuM :2005/11/19(土) 23:54:51




珍しい酒席をそれなりに楽しんで、5人は店を後にし、ほろ酔い加減でタクシーを拾おうと歩き出した。

有田はすっかりご機嫌で、首を軽く右腕でキメたような状態で上田を引きずり、長州の『パワーホール』を
大音量の鼻歌で歌いながら前を歩く。上田は今にも倒れそうになりながらよたよたと相方に連れて行かれた。


「…離せ!首キマッてる!相方不慮の事故で殺す気か!」
「ふんふんふふ〜ん♪ふふふふふふふふ♪ ふんふんふふ〜ん…」


…先の角を曲がったらしく姿は見えないが、ここまで響いてくるほど2人の声は大きい。

残りの3人はなんとなく固まって歩いていたが、スニーカーの紐が解けた井上は、皆から少し遅れる。
今日の集まりに使った居酒屋は奥まったところにあるので、街道に出るまでが暗いせいか、前を行く相方と波田の背が
わずかに闇に霞みぼやけていた。吹きすぎた冷たい風に、冬が近いなと思いながら上着の襟をかきあわせる。

そういえば自分の石を使っていた奴が、『凍る』とか言ってた、と波田は話していた。
こんな季節にそない寒々しい力ってのも何やなあ、と小さくごちて、ポケットの中の金の粒に触れてみる。
その瞬間、何となく指先から石の波動のようなものが伝わってきた気がして、慌てて井上はそれをとりだした。

369 :[東京花火−scene6] ◆yPCidWtUuM :2005/11/19(土) 23:55:47

…光っている。

これは例の『共鳴』という奴だろうか、それにしてはこのあいだと違う、何か嫌な感じがする。


「…準一!」


とっさに井上は前にいる自分の相方の名前を呼んだ。そのただならぬ声の調子にふり返った河本が今度は叫ぶ。
井上の後ろに凄まじいスピードで何かの影が迫って来ていたのだ。


「聡、伏せろ!」


それに反応して井上はバッと身を伏せた。凄まじいスピードでその上を人影が飛び越える。
人影はしなやかな低い姿勢でアスファルトの上にズザッ、と急ブレーキをかけて着地し、地面を見つめたまま言った。


370 :[東京花火−scene6] ◆yPCidWtUuM :2005/11/19(土) 23:57:10


「…ちぇっ、ラチるの失敗しちゃったよ二郎ちゃ〜ん」


ちょっと拗ねたようにこぼした言葉は、その声の調子と裏腹にまるで穏やかでない。
しかしその声と彼が呼びかけた名前に井上は耳を疑い、河本も目を見開いて硬直した。


「駄目だろ松田、もっと静かに近づけよ」


呼びかけに答えてのっそりと表れたのは、金髪の横に大きな男。
暗闇にまぎれて近づいたのは、東京ダイナマイトの松田と高野だった。






371 :[東京花火−scene7] ◆yPCidWtUuM :2005/11/19(土) 23:57:48




松田は黒く闇に溶ける道の上、片膝をついて腰を沈めた体勢のまま、くしゃりと笑って言う。


「井上くん久しぶり。元気にしてた?」
「…」


その口調は親しげなものだったが、井上はとても松田のその問いに軽く答える気にはなれない。
目の前の人物は自分を背後から襲い、拉致しようとしていたのだ。いくらそれがよく知る相手であったとしても、
恐怖と不信感は消えなかった。

一人離れたこの状況はまずい。そう判断した井上は、松田の様子をうかがいつつ河本のそばまで走った。
河本の横につくと、その後ろでは波田がいつの間にかギターをとりだして襲撃者の方を睨んでいる。
その様子を松田はつまらなそうな顔で一瞥し、ぐい、と体に力を入れて立ち上がり、服の埃を払った。


「おい、二郎…!こりゃ一体何のマネや!」


井上が自分の方に走ってくるのを見てハッと我にかえった河本は、前々からの友人である高野にむかって
悲痛な叫びをあげる。しかし高野は闇の中、いつもの笑みを崩さない。人好きのするそれが今に限っては
ひどく酷薄なものに感じられた。

372 :[東京花火−scene7] ◆yPCidWtUuM :2005/11/19(土) 23:58:21


「…井上くんの持ってる石に用がある。この間そっちのギターの彼を襲いに行った下っ端に誰かが
 持たせちまったらしくてさ。使えねえ奴がいい石持ってもしょうがねえってのに…。
 そいつらが失敗したとき回収されたもんだとばっか思ってたけど、今見たら井上くんが持ってんのな。
 もしお前がレインボークォーツとかサードオニキス持ってんならそれも渡してもらうわ」


高野が普段通りの口調でそう言うのを聞いて、河本は理解したくないことをやっと理解した。
この2人は黒のユニットに属していて、自分たちの持つ石を回収しにきたのだ。
高野が『サードオニキス』と口にしたとき、自分の持つ石の名前がそれであることを河本はなぜか悟ってしまった。
レインボークォーツというのはおそらく、波田の拾った石の名前だろう。

高野たちと戦闘など、間違ってもしたくはない。だが、先ほどの松田の行為はあまりにも乱暴すぎる。
たとえ友人とはいえ、自分の相方を襲おうとした2人を許すわけにはいかない。素直に石を渡すなどもってのほかだ。
河本はスッと自分のサードオニキスを掲げてみせ、言った。


「これは渡されへんで。聡ラチろうとするような奴に簡単に渡してたまるかい!」
「まあそう言わないでさ…ほら、何なら黒に来たらいいじゃん、河本も」
「…こんな物騒な奴の仲間になる気なんざあらへんわ」
「そう、じゃあしょーがねえな」


373 :[東京花火−scene7] ◆yPCidWtUuM :2005/11/19(土) 23:58:56


ニコニコと笑ったまま、高野はオレンジ色をした自分の石を指先でもてあそんでいる。
そんな様子に焦れたのか、先ほどからずっと黙って立ったままでいた松田が口を開いた。


「二郎ちゃん、やっちゃっていい?」
「…まず井上くんのを盗ってこい、使われるとメンドクセーから」
「…あーい」


問われた高野は動じることなく答え、松田はまたも恐るべき速さで井上に飛びかかる。
井上は避けようとしたが松田のスピードの前にそれはかなわず、すぐさまマウントをとられて体の自由を奪われてしまった。
だが井上が手の中に握り込んでいた石を奪いとるのに手間どったせいでわずかに遅くなった松田の動きが
どうにか河本の目にうつった瞬間、河本は松田を指さし、頭の中に浮かんだ言葉を思いっきり叫んだ。


「そうは酢ブタの天津どーーーーん!」


とたんに松田の体はピタリと動かなくなり、井上の手から石を奪いとったまま、固まってしまった。
その上に空から酢ブタと天津丼が思いっきり降ってきて、松田の頭にドンブリと皿が直撃し、ガツーンといい音をたてる。
幸い割れなかったドンブリと皿から溢れ出した中身がびしゃびしゃとかかって、松田はあまりの熱さにパニックを起こした。

374 :[東京花火−scene7] ◆yPCidWtUuM :2005/11/19(土) 23:59:48


「痛っつーーーーだあぁうあっっちいぃいいい!!!!!!」


松田に馬乗りされた状態の井上まで酢ブタと天津丼のとばっちりを受け、松田の体を突き飛ばす。


「あっつーーーー!!!何すんの準一ぃい!!!」
「あ…すまん聡…」


酢ブタのパイナップルを額にはりつけ、天津丼のアンまみれで地面を転がる男前の相方に、河本は小さく謝って駆け寄る。
その様子にあっけにとられていた高野を後目に、今度は波田が動いた。いつものギターの音が鳴り出す。


『拙者、ギター侍じゃ…』
「松田、ソイツのギターを奪え!」


そのフレーズに高野はハッとして叫び、まだヘルニアの後遺症がある体をひきずって井上たちに近づいた。
高野の声にどうにか立ち上がった松田が飛びかかろうとするそのとき、波田は次の台詞を叫ぶ。


375 :[東京花火−scene7] ◆yPCidWtUuM :2005/11/20(日) 00:00:32


『…残念!! 松田大輔ッ… 「真剣白刃どりーーーーっ!!!」 …ぃり…っ!』


ギターが日本刀に姿を変え、松田に向かってふり下ろされようとしたが、松田の両手がギリギリで刀を
白刃どりしたことに気を取られ、波田が台詞を言い切れなかっため、松田の動きを封じるには至らない。
そのまま石の力同士がぶつかりあった波田と松田は互いにはねとばされ、地面に叩き付けられた。
完全に力を発動できなかった分波田の方が分が悪かったか、松田は何とか受け身をとったが
波田はそのまま気絶したらしく、動かない。

その激しいぶつかり合いのさなか、地面に転がったまま戦いに気をとられていた井上と、その横にしゃがんでいた
河本のすぐ近くまで高野が迫っていた。


「…つかまえた」


静かに高野の声が河本の耳元に響く。肉厚の手のひらが河本の肩をがっちりと掴んでいた。


「河本、お前のサードオニキスちょうだい。あとレインボークォーツを多分波田が持ってるから、奪って俺に返して」


376 :[東京花火−scene7] ◆yPCidWtUuM :2005/11/20(日) 00:00:58


その言葉とともに高野の石が光を発する。河本はビクリ、と反応して握っていた石を高野に差し出し、立ち上がった。
その様子に慌てて井上も立ち上がり声をかけるが、河本は振り返りもせずにまっすぐ波田のもとへと走っていく。


「無駄だよ、今の河本には聞こえない」


高野は笑みを含んだ声で井上に言った。井上はバッと高野の方を向いてその笑い顔を睨む。


「俺の言うこと聞くってさ、河本は…しっかしアイツの石にはびっくりしたよ、サードオニキスは持ち主の個性で
 能力が変わるって聞いてたけど、酢ブタと天津丼はねえよなぁ」


くっくっ、と愉快そうに笑い声を漏らした高野の襟首を、井上がグイ、と引っぱって言う。


「…二郎ちゃん、準一に何したん」


静かに、だが激しく怒る井上の吊り上がった目にも高野はちらりとも動揺を見せない。それどころか、自分の首元を
しめあげている井上の手首を、生まれついての握力をフルに使ってぎりぎりと握りつぶそうとした。
あまりの痛みに井上が顔を歪めて高野の首から手を離すと、高野も井上の手首を離す。


377 :[東京花火−scene7] ◆yPCidWtUuM :2005/11/20(日) 00:01:35


「…ちょっと言うこと聞かせただけだよ。ほら、もうすぐ終わる」


言いながら高野は顎で、波田の荷物をさぐっている河本を示した。井上は相方のその姿に愕然とし、駆け寄って
河本の背中に手をかけ、揺すぶる。


「準一、何してんねん、波田くんの石あいつらに渡したらあかんて!」


河本はうるさそうに井上の手を突っぱね、波田の持つレインボークォーツを探しつづけた。
それでも何とか河本を止めようと、後ろからはがい締めにしようとした井上は、河本に力一杯突き飛ばされる。
体勢を崩して尻餅をついた井上は、呆然と自分の言葉の通じない相方の背中を見やった。
ひどく悲しい気持ちで井上はのろのろと立ち上がる。ふと泳いだ目の先、すぐそばの地面に光るものを見つけた。

…金だ。

おそらく松田が波田の刀を防いだとき、手から転がり落ちたのだろう。松田はまだ背中をおさえたまま倒れている。
高野はきっと、松田がこれを落としたことに気づいていない。だから河本に「金を返せ」とは言わなかったのだ。
井上は祈るような気持ちで金に手を伸ばした。この石の使い方は知らない、だがもしこれが自分のものだというなら、
きっとこの状況をなんとかしてくれる。そう思って井上は必死で小さな金の塊を握りしめた。


378 :[東京花火−scene7] ◆yPCidWtUuM :2005/11/20(日) 00:02:11

とたんに光り出す石に導かれたように、井上は伸ばした両手を頭上で固くあわせ、その中に石を包んだまま、
思いっきり地面にダイブする。井上の体は高野の目の前まで勢いよく滑っていき、その足下で止まった。


「しまったっ…!」


高野の声が響き、その手の中にあったスペサルタイトが光を失い、凍りつく。その瞬間、河本が正気を取り戻した。
その手にはちょうど波田のギターケースから見つけたところだったレインボークォーツが握られている。

一体自分が何をしていたのかわからず、河本は周囲を見回す。そこにはやっとのことで立ち上がろうとしている松田と、
目一杯体を伸ばしたままで高野の前に倒れている井上、そしてただ立ち尽くす高野の姿があった。


「聡っ?!」


動かない相方の姿に思わず河本は叫び声をあげる。見たところ怪我のないのに安心したものの、状況が
わからないのはそのままで、とっさに河本は自分の石のことを思った。ふと手の中を見ると、そこにあるのは
自分の石のサードオニキスではなく、波田の拾ったレインボークォーツだ。サードオニキスがどこにもないことに気づき、
やっと河本の記憶がよみがえってきた。そうだ、自分は高野にあの石を渡してしまった…!


379 :[東京花火−scene7] ◆yPCidWtUuM :2005/11/20(日) 00:03:34


「…それちょうだい」


河本がその小さな声に振り返ると、目の前には鬼の形相の松田が立っていた。まだふらふらしている体で
松田が河本に襲いかかる。もはや松田は石の力を使えてはいなかったが、死にものぐるいで河本の手から石を
奪おうとしていた。その執念とも言うべき力に河本は必死であらがう。体勢を崩して倒れ込んだ2人の後ろから、
それまで忘れ去っていた人物の声が聞こえた。


「河本、大丈夫か!」


先に行ってしまったものだとばかり思っていた有田だった。少し遅れて上田も走ってくる。その状況を見た高野は、
すぐに松田に声をかけた。


「松田、石はいい、逃げろ!」


380 :[東京花火−scene7] ◆yPCidWtUuM :2005/11/20(日) 00:04:30


その声に松田は河本からはなれ、高野のもとへと走ろうとしたが、もはや石の力の反動で体がまともに動かない。
地面を這うようにして自分のもとに向かってくる松田の手をとろうと高野は必死で走り寄るが、腰に爆弾を抱えた体では
限界があった。それでも何とか松田を助け起こし、その場を去ろうとする。

しかしそのとき河本が立ち上がり、レインボークォーツを握りしめたまま叫んだ。


「ふざけんなや、俺の石返していかんかい!!!」


…その叫びが闇に響き渡るとともに、河本の手の中で石が虹色の光を発する。その眩しさに全員が目をひそめた。






381 :[東京花火−scene8] ◆yPCidWtUuM :2005/11/20(日) 00:05:05




それからどのくらいの時間が経ったのかはわからない。


気づくと河本のもう一方の手の中には、サードオニキスが再び握られていた。
だが、河本にはなぜその石が再び自分のもとへやってきたのかは思い出すことができない。


「うう…」


小さなうめき声に振り向くと、波田が起き上がろうとしていた。その横でなぜか正座した状態になっていた有田と
いつのまにか尻餅をついたままだった上田も気がついたのか、頭を振って目をぱちぱちさせている。
その様子に河本はすぐに井上のことを思い出し、彼が倒れていたはずの場所を見やると、
そこには体育座りで縮こまって震えている相方の姿があった。


「聡!大丈夫か!」


河本は井上に駆けより、異常な状態の相方に声をかける。すると井上は、紫色の唇でぽつりと呟いた。

382 :[東京花火−scene8] ◆yPCidWtUuM :2005/11/20(日) 00:05:55


「寒い…」


その手には金の粒が握られており、河本はこの井上の状態がおそらく石の力の反動であろうと察する。
確か波田を襲った刺客が『凍る』とか言ったと聞いた、これのことだろう。しっかりしろ、と井上の背中をさすり、立たせてやる。


「井上、コレ着とけ」


その様子を見ていたらしい上田が寄ってきて、侠気にあふれる発言とともに自分の上着を差し出した。


「…いやー上田さんオットコマエですねえ、ナーンにもしなかったくせに」
「…お前もだろ!大体お前が俺の首キメたまま歩ッてったからこいつらが襲われたの気づかなかったんじゃねーか!」
「いやいや上田さん、気づいてても貴方は戦闘の役には立たねえし同じですから〜!…残念!」
「有田さん、それ俺のネタです…」
「有田お前、大概にしとけよ…?」


383 :[東京花火−scene8] ◆yPCidWtUuM :2005/11/20(日) 00:06:33


有田の襟首をつかもうとして逃げられた上田はおちゃらけまくった相方を怒り心頭で追いかけ回す。
波田は松田との戦いでネックの折れてしまったらしいギターを拾いつつ、その様子をおろおろと見ている。
結局上田の上着を羽織ることにした井上と、その横に立つ河本は、何て緊張感のない人たちだろうと
この先輩2人に軽く尊敬の念すら覚えていた。


「…そういや、襲ってきた奴ら、どうしたんだ?」


有田を追いかけ回して疲れたらしい上田が、今度は逆に自分が相方の首をキメながら戻ってきて聞く。
有田は「ギブ!ギブ!」と叫んで上田の腕を叩いているが、解いてやる気はさらさらないらしい。


「あれ、そういやどしたんやろ…」


河本はぽつりと呟いて周りを見てみるが、松田と高野の姿はない。そして河本の脳裏からは、レインボークォーツが
光ったあたりからの記憶が全て消えていた。


384 :[東京花火−scene8] ◆yPCidWtUuM :2005/11/20(日) 00:06:53


「俺も松田さんとぶつかった後の記憶がないんです」
「ああ、それは気絶しとったからやろ」
「俺もこの石、拾った後の記憶がないわ…マグロになったのは確かやねん」
「は?マグロ?」
「うん、何かな、マグロやらなあかん気がして、滑ってったんよ、そしたら二郎ちゃんとこ着いて…そうや、二郎ちゃんの
 石の力、多分俺の石ん中に凍ってる」
「二郎の力?」
「この石、きっとそういう力があんねん」
「…」


しんみりと井上の手の上の金の粒を皆が見つめる中、有田の弱々しい声が聞こえてくる。


「う…えだ…、し、し…ぬ…」
「…っ、すまん有田!」


…石に気を取られて力の調節を忘れていたらしい上田の腕に首をキメられまくっていた有田は、軽く絶命寸前だった。







385 :[東京花火−scene9] ◆yPCidWtUuM :2005/11/20(日) 00:08:04





「二郎ちゃん、腰大丈夫?」
「おー、何とか…お前足とかもう平気か?」
「んー、しばらく無理っぽい」


有田が相方の手で死にかけていた頃、東京ダイナマイトは少し離れた公園でぐったりしていた。
実はレインボークォーツが光り、高野の手からサードオニキスが失われた瞬間、彼らの前に赤いゲートが現れていたのだ。
そう、彼らを助けたのは黒の重鎮、土田だった。ゲートの中から土田が手を伸ばし、力一杯引っぱり込んで
この公園までつれてきたのだ。土田は一言「…疲れさせんなよ」と言い残し緑のゲートで去っていった。


386 :[東京花火−scene9] ◆yPCidWtUuM :2005/11/20(日) 00:08:27


「…今回は俺らの負けか」
「だねえ…悔しいけどさ」


松田は力を使い果たし、高野は石の力を封じられ、散々な結果だ。それでも、彼らの胸の内に暗いものはなかった。
戦う相手が誰だとしても、戦う理由が何だとしても、全力で臨むのが彼らの流儀だ。敗北も勝利もその結果でしかない。

松田と高野は顔を見合わせる。そしてつい吹き出した2人の笑い声が夜中の公園に響く。
どこぞのマンションの窓から「うるせえぞ!」と怒られ、また笑い、ひとしきり笑ってから公園を後にした。




…彼らの戦いもまた、終わらない。






387 :[東京花火-設定] ◆yPCidWtUuM :2005/11/20(日) 00:09:44
次長課長

井上聡
石:金(確実な助言と力)
能力:
その場にいる石を持っている人間の中で、もっとも自分にとって危険な存在を特定し、その能力を封じられる。
「築地のマグロ」になった井上が滑ってたどり着く先が最も危険な存在と特定され、その能力が井上の石の中に冷凍される。
例)1つの部屋の中に井上以外にAB2人の石の能力者がいたとする。
A:井上とその仲間への害意がある、石の力は弱い 
B:井上とその仲間への害意がない、石の力が強い
この場合は、あくまで「自分にとって」危ない存在を特定するので、Bの力が冷凍される。
また、肉体的な害、精神的な害どちらにも反応する。
条件:
危険な人物に特攻していく形になってしまうというリスクがある。しかも井上自身は完全に冷凍マグロと化すので、
いっさいの攻撃/守備ができなくなり、その場にマグロの姿のまま放り出される。一回の戦闘につき一回の、捨て身の技。
能力を解除した後、冷凍の後遺症でしばらくの間寒くてたまらなくなる。また、その場の戦闘がすべて終わると
自然に井上は元に戻るが、井上の石の中に冷凍された能力は、次に井上が他の人間に能力を使うまで使えなくなる。

388 :[東京花火-設定] ◆yPCidWtUuM :2005/11/20(日) 00:10:25
次長課長

河本準一
石:サードオニキス/別名:赤縞瑪瑙(人間愛、夫婦愛。個性を引きだす。内臓への活力。)
能力(1):例の顔マネと「お前に食わせるタンメンはねえ!」の台詞とともに中華料理屋の扉が出現、攻撃をはね返す。
能力(2):「そうは酢ブタの天津丼!」の台詞とともに指さした敵の行動を数秒止め、頭上に酢ブタと天津丼をおみまいする。
条件:
扉のサイズ以上の範囲はカバーできない。出現するのは横にひいて開ける2枚扉でのれん付き。街の中華料理屋や
ラーメン屋に多い磨りガラス製の扉。強度は銃弾を通さない強化ガラス程度。反射できるのは物理攻撃のみ。
また、台詞をかんだり顔マネが中途半端だったりすると扉の強度が下がる。1日に3〜4回くらいが限度。
酢ブタと天津丼は火傷するほど熱い。止められるのは河本の目に見える人間の運動行為のみで1人の敵につき1回が限度。
つまり「走り出そうとしている人」「人を殴ろうとしている人」「何か投げようとしている人」などを止めることはできるが、
「その場で動かずに何かおこなおうとする人」「頭の中で何か考えている人」「人が投げた物体」を止めたりはできない。
全能力を使った後、河本は朝から晩まで休みなく厨房で働いたくらいの疲労感におそわれ、まともに動けなくなる。


389 :[東京花火-設定] ◆yPCidWtUuM :2005/11/20(日) 00:10:59
波田陽区が拾った石

石:レインボークォーツ(七つの光が願いを叶える)
能力:
持ち主の、他人に関する害意のない望みを叶える。ただしもとの状態以上に他人の能力を引き上げたり、
存在しないものを作り出して他人に与えるような力はなく、使用者自身に関する望みも一定のこと以外叶わない。
つまり「仲間の怪我を治したい」「遠くにいる仲間に自分の持っている傘を武器として与えたい」は叶うが、
「自分の怪我を治したい」「仲間の力を限界より強くしたい」「仲間にバズーカ砲を作り出して与えたい」は叶わない。
また「他人の持っている自分の傘を自分に返させる」ことは可能だが「他人の傘をとりあげて自分のものにする」ことは不可能。
条件/代償:
他人に害を与えることを望む場合には、同等の害が使用者自身にももたらされるため注意を要する。
「敵に動けなくなるほどの怪我を負わせたい」という願いは叶うが、同時に自分も動けなくなるほどの怪我を負う。
叶えられる望みの大きさは「使う人間の実力」「石とどの程度波長が合うか」に左右される。
また、石を使用した際、その石に関することを中心に、使用者とその場にいたものの記憶が曖昧になる。
望みの害意のあるなしに関わらず、石が叶えた望みが大きければ大きいほど、記憶の損傷は激しい。

390 : ◆yPCidWtUuM :2005/11/20(日) 00:25:09
…以上です。

河本の能力(1)を設定しておきながら使えなかったんですが、せっかくなので全部書いておきます。
非常に長い話になりましたが、これで完結です。今回は本編として書いております。

タイトルは「東京ダイナマイト」の名前の由来となった同名の曲を製作したニューロティカより。
とはいえ「東京花火」の歌詞と本文の内容は全然関係ないです。語感です。
ホントは別の曲からとって「メシ喰いに行こう」にしようとしたんですが、あまりに緊迫感がないのでやめました…。

391 : ◆yPCidWtUuM :2005/11/20(日) 00:32:17
すいません、付け足しです。

サードオニキスは「個性を引き出す」石なので、持つ人によって石の能力が変わるという設定をつけてあります。
なのでこの話の中で波田が襲われた際、この石を持っていた刺客は河本さんとは違う力で戦っていたと思われます。

392 :名無しさん:2005/11/20(日) 03:14:26
スレがやたら伸びてると思ったら長編キタ――(゚∀゚)――!!おおおお乙!
ダイナマ2人、黒なのに楽しそうでタチ悪いなwなんからしいけど。

余談だが次課長の能力にメガワロタ

393 :名無しさん:2005/11/20(日) 14:41:12
乙です!
上田の打ちのめされ方が笑えました(笑)
単刀直入すぎる!

394 :歌唄い ◆4.Or.2D2Hw :2005/11/20(日) 14:41:34
>>240から

びゅうびゅうと音が聞こえるくらい、屋上には強い風が吹いていた。そこにいる三つの人影。やたらスタイルの良いのっぽの男と、その両隣にいる長髪と茶髪の小さな男。
茶髪の男…陣内は先程礼二にかけた携帯電話を乱暴にパチンと閉じた。
さっき、話していたとき電話口で、礼二以外の声が聞こえた。まあ、集団用の楽屋だからそりゃあ聞こえるだろうが、明らかに自分たちの会話を礼二と共に聞いていた。
一人は兄の剛だ。まあ一緒にいるのが当たり前だからそれは仕方ない。問題は…
「何であいつらまで一緒におるん…」
ちっ、と舌打ちをして俯き髪の毛をくしゃりと掴む。あいつら、とは麒麟の川島と田村のことだ。彼らの声が電話を通して微かに聞こえたのだ。
一応電話中は気付かない振りをしてやったが、ちょっとした事で彼らに憎悪の感情を持つようになった陣内は声を聞いた途端不機嫌な、冷たい顔になった。
「ほんま腹立つなあ…!」
普段滅多に出さないような、本当に苛々している時にしか出さないドスの利いた声でぐっ、と携帯を握りしめた。携帯がミシミシと軋む。
その険悪な空気に耐えられなくなった阿部が訴えるように吉田の腕をつつく。つい先程まで黙ったままだった吉田が渋々、陣内を落ち着かせようと手を伸ばしたその時―――。

バンッ!

という音と共に陣内の手に握られていた携帯は、壊れた。塗装も、アンテナも、液晶ガラスも、粉々に砕け散った。原型を留めていなく、もはやそれが元々携帯だったと言われても信じる者は居ないだろう。
陣内は尚も険しい目つきで、割れた破片で切ってしまい皮膚が切れ血が薄く滲んでいる掌を見詰めた後、手を服になすりつけて粉状になった破片をぱらぱらと落とした。
吉田は動きを止めその光景に目を見張った。
いくら怒りに任せていたとは言え、思い切り握っただけでこれほどまでに見事にバラバラになるだろうか。
(それに、…)
吉田は思った。携帯が砕けたときに聞いたあの妙な“音”。潰れたときに出るものではない。
……あれは間違いなく“破裂音”だった。


395 :歌唄い ◆4.Or.2D2Hw :2005/11/20(日) 14:43:22
そっと、キーホルダーとしてズボンに取り付けられている陣内の石を見た。
「…っ…!」
思わず短い声が出た。石の黒ずみが、無くなっている。そのかわり、彼の石・ムーンストーンは今まで以上の強い輝きを放っていた。
だがその石からは初めて見たときに感じた“優しさ”は感じられなかった。明るい光。なのに、どこか刺々しく攻撃的で激しい。擬音で表現するなら、“ギラギラ”だろうか。
それとそっくりそのままのことが、今の陣内にもぴったり当てはまる。

「ん、おお。スマン、お前らに話があったん忘れるとこやった」
ころっ、と表情を一変させ、しゃがみ込んで後ろに置いてあったカバンの中を漁り始める。何かを取り出した陣内は振り返って立ち上がり、手に持っていた小瓶を差し出した。
吉田は困惑の表情を浮かべ、それと陣内の顔を交互に見比べる。吉田の脇からひょこっと顔を出した阿部も不思議そうな顔をした。
それは、ついこの間自分たちが陣内に渡した、黒い欠片の入った小瓶。あの時はまだ彼は微量の欠片しか使っていなかったので、黒に入れるためにはもっと欠片を取り入れてもらえという命令を上から受けていた。
しかし陣内はそれを使うことなく、今もその手に持っている。
「…何ですか」
と、心の動揺を悟られないように薄笑いを浮かべ態とらしく聞いてみた。
「これ、この欠片。お前らに返そう思ぉて」
瓶のコルクでキャップされた口を指でつまみ、小刻みに振ってみせる。中の欠片が忙しなく狭い瓶の中で跳ね、カラカラと不思議な音を立てた。
「こんなモンのーても、俺が願えばこの石何処までも強くなれんねんで」
陣内の言う“願い”、つまり“感情のエネルギー”をどんどん取り込んでいったムーンストーンは遂に黒い欠片の力までをも飲み込むほどに力が誇大してしまったのだろうか。
チェーンとこすれて軽い音を立てる石に目をやり、指で触る。石は相変わらず不気味なほどに光り輝いていて。―――光が目に映っただけだろうか。一瞬、彼の瞳も石と同じ色に光った気もする―――。
恐怖とはまた違った感覚がさっと身体を走り、額に脂汗が浮かぶ。目を離す事が出来ない。



396 :歌唄い ◆4.Or.2D2Hw :2005/11/20(日) 14:46:38

「そうや。…こんなモン…頼るお前らと…、俺は…ちゃうんに…」
陣内の途切れ途切れの声が段々と独り言を言っているかのように小さくなる。口調は無機質なものになり、俯き加減の視線は真っ直ぐ石に向けられ縛り付けられていた。
―――(このままだとマジでやばいだろ、これ)
これはもう黒に入れるとか入れないとか、そんな事を考えている場合ではない。
吉田は陣内の腕を掴んだ。

「…その石を離してください!」
早くしないと…、そう続けようとしたがその言葉は出なかった。否、出せなかったと言って良いだろう――。
陣内が無言で、且つ強い視線を吉田に浴びせかけたその瞬間、石が大きく鼓動し、吉田の腕は何かに捻り上げられたようにひとりで関節がねじれた。
無理矢理捻られた腕から骨が軋む音が聞こえた。
「あっ…!?」
痛みと驚きから悲痛な叫び声が口から漏れる。膝をつき脈打つたびにズキズキと痛む腕を、眉間に皺を寄せ目を堅く瞑り押さえつける。
驚いた阿部が心配そうに駆け寄ってきた。これまでの怪我は切り傷や擦り傷などの外傷が殆どで、その度に阿部に治して貰っていた。だが今のように身体の芯や内側から来る痛みは、阿部には治せない。
痛みからぜえぜえと荒い息づかいになりながら、吉田は思った。
今までは「痛い」と感じる前に阿部が治してくれていたんだった。治す度に、自分の替わりに阿部が痛い思いをしてくれていた。彼はそんなこと一言も言わなかったが、顔を見たときその石の代償が一瞬で分かったのを覚えている。


397 :歌唄い ◆4.Or.2D2Hw :2005/11/20(日) 14:49:31
(あー何か、久しぶりに凄え痛い思いした…)
段々と痛みが引いていく。思い切り捻れた腕はまだ痺れてはいるものの、骨に異常は無いようだった。

「…吉田、吉田」
阿部が小さな声で、地に片手を着いたまま俯いている吉田の肩を小刻みに揺らす。
顔を上げるとこちらを見下ろしている陣内と目があった。思わず息を呑む。月の逆光の所為で彼の表情は見えないが、その瞳の不気味な輝きだけは網膜にしっかりと映った。
人間のものではない、空に浮かぶ月と同じ白みがかった黄色い目。その中央の黒目がぎょろりと動く。
いつもの暖かい笑顔はそこには無く、小馬鹿にしたように薄く笑う表情は、暗くそして執念深い。
ああ、遅かったか。と吉田は目を伏せた。

突然、陣内が小さなうめき声を上げて頭を押さえた。
『………わたし、は……』
陣内の声に被さるかの如く、機械で変えたような女性の声が聞こえる。きっとこれが石の声だろう。吉田たちにもその声が聞こえたのは、石がいよいよ陣内の魂を支配してきている事を意味する。
「…痛った……何や…?」
米神ををさすりながら空を見上げて呟いた。
(そっか、ムーンストーンって女なんだ……怖えーなあ、全く…)
吉田は五月蠅いほど眩しい光を放つムーンストーンを睨んだ。



398 :歌唄い ◆4.Or.2D2Hw :2005/11/20(日) 14:52:46


「川島、俺めっちゃ手汗かいてる。何か心臓もバクバクしよるし」
一段飛ばしで階段を駆け上りながら、田村が言った。
漫才をする前の緊張、とはまた違った…それとは正反対の、一言で言えば“嫌な予感”がする。
「おぉ、分かんで。凄い強い気配がする。何やろう、これ…黒い破片の気配や無い……何か、別の何かが…」
その時、ポッと頭の中に一つの答えが浮かんだ。

―――石自体の力?
はっ、と川島は息を呑んだ。自らの黒水晶を見るとチカチカと警告の合図のように瞬いている。

「川島…陣さんが、呼んどる…」
「…おー」
鉛のように重くなってきた足を引っ張りながら、最後の階段を上る。
屋上のドアに近づく度、心臓の鼓動が一層早くなっていく。
「何でや、何でこんな意味のないこと……!」
低い声で呟き、勢いに任せてドアノブに手を掛け扉を開いた。


屋上を吹き抜ける強い風が真正面からぶつかり髪の毛を踊らせ、スーツの裾を巻き上げた。




399 :Phantom in August  ◆ekt663D/rE :2005/11/21(月) 23:24:09
>>309-315 の続き

【21:27 都内・某墓地】

墓地のあちらこちらで悲鳴の上がる中、設楽はどこか上機嫌といった様子で通路を進んでいく。
先ほども墓石の陰から身を乗り出して不気味なほどの笑顔を浮かべていた双子を軽くあしらったばかり。
「みんななかなか趣向を凝らしてて…結構やってみるモンだねぇ。」
「……………。」
けれど、肝試しというイベントを楽しんでいる設楽に対して傍らの井戸田は先ほどからずっと硬い表情を崩さない。
幾度話を振っても警戒の色を露骨に表している井戸田の反応に、設楽は苦笑いを浮かべて肩を竦めた。
「あのさ、イトリ。お前は真面目に俺の事見張ってるつもりなんだろうけどさ、本当に今夜は何もしないから。」
「……………。」
軽い調子で井戸田に告げても、彼の警戒は解けない。
ちょっと自業自得の所はあるかもだけど、どうもこれだけが興醒めなんだよね…と口に出さずに呟いて設楽は頭を掻いた。

『黒のユニット』に於いて幹部を務めている設楽と、『白のユニット』の一員として『黒』と敵対している井戸田。
井戸田の立場からすれば、今夜の肝試しに乗じて『黒』が何かやらかさないか見張っておく必要があるのは当然で
同時に設楽の立場からすれば、今夜の肝試しを利用して井戸田達『白』のメンバーを潰す計画は余りにも魅力的で。
肝試し実行の妨げになるだろうこの懸念を、設楽が今夜だけは『黒』を持ち込まないと明言した事で、何とかクリアして
今日までこぎ着けてきたのだけれども。
やはり余りにも互いに明確に想像できるが為に、井戸田は警戒を解かず、設楽はずっと困り果てている訳で。
「俺が直々に何もしねぇって宣言してるんだ。素直に状況を楽しめないと…勿体ないぞ。」
「……………。」
最近は『白い悪意』とやらまで跋扈してるんだし、いつ何が起こるかわからないんだから。
そう呼びかけてもやはり井戸田の表情は変わらなくて。設楽はこれで何度目になるかわからないけれど、深い溜息をついた。
こうも頑固であるのなら、いっその事ソーダライトの能力を借りて井戸田を懐柔してしまおうかと設楽も思わなくもないけれど。
さすがにそれはワガママが過ぎるような気がして、まだ実行に移せずにいる。
その代わりにぐるりと辺りを見回して、設楽はポツリと呟いた。

400 :Phantom in August  ◆ekt663D/rE :2005/11/21(月) 23:25:19
「しっかし、みんなは楽しそうなんだけどなぁ。」
相変わらず墓地のあちらこちらで悲鳴が上がっている。
しかし、同時にはしゃぐような楽しげな声もちらほら聞こえ、石の使い手だけにわかる石が発動する気配も伝わってきていた。
脅かし班の赤岡の黒珊瑚や島田の白珊瑚はもちろんだろうが、脅かしに対抗する側も日村のスモーキークォーツや
磯山のバイオレットサファイアなどが力を放っているようだ。

「……………。」
設楽の仕草につられるように、井戸田も顔をもたげ、辺りを見回す。
…はしゃいでる面々を危機感のない無邪気な奴らだとでも思ってるんだろうか。
相変わらず険しい井戸田の横顔を眺めながら、設楽がそんな事をぼんやりと考えていると。
不意にピクっと眉がしかめられて井戸田の表情に変化が訪れる。
「……何だ?」
その原因は、設楽にも瞬時に理解できた。
感じたのだ。ひときわ強く石の力が発動する気配を。しかも、それは少なくとも此処にいるはずのない人間の石で。

「あの馬鹿……っ!」
故に。声には出さずに呻き、設楽は苦い表情を浮かべる。
その表情が元の楽しげな物に戻るには、それから幾らかの時間が必要となった。





401 :Phantom in August  ◆ekt663D/rE :2005/11/21(月) 23:28:54
肝試しの通路から少し外れるだけで、墓地はすぐさまその顔を本来の死者の眠る場としてのそれに変える。
闇が覆うその中を、懐中電灯で足下を照らしながら小沢と川元は歩を進め、やがてどちらが先という事もなく立ち止まった。
いくら今が夜であるとは言え、辺りを包む蒸した暑さに苛立つかのように川元はふぅと息を吐き、すぐさま片手で携帯を掴み出す。
そういえば、小沢達が出発するちょっと前にも彼はどこかに電話を掛けていたように思う。
どこか場違いのように携帯の液晶が放つ光を眺めていると、慣れ親しんだ文明の利器の力なのか少し落ち着けてきた気がして
小沢はゆっくりと側の段差に腰掛けた。

その間にもひっきりなしに感じる石の発動する気配、そして耳に届く悲鳴と歓声。肝試しはまだまだ続いている。
「……………。」
けれど一度喧噪から離れると、そのただ中に居る時よりも冷静な目で状況を眺める事が出来るような気がして。
小沢も一つ深い息を吐いて、大丈夫、怖くないと口に出さずに呟いた。
…ここに居る連中はあくまで人を驚かそうとしているだけで、石や身の安全を脅かそうとしている訳じゃない。
怖くなんかない。怖くなんかない。むやみに驚いて、怯える必要なんか無い。
そう何度も自分に言い聞かせるようにしていたけれど。


バチン。


「……………っ!」
しかし、不意に起こる物音に、小沢の肩はビクッと震えてしまった。
反射的に目を向けた先には、先ほどまで弄っていた携帯を閉じる川元の姿。
「……どうしました?」
用件が済んだのだろうか。携帯を元のポケットにねじ込みながら、川元は小沢に問う。
「な…何でもない。大丈夫。」
普段なら気にならない、ただ携帯を閉じただけの物音ながら。
激しく動きだす心臓を押さえるように胸に手をやりながら、小沢は軽く俯いて川元にそう答えた。

402 :Phantom in August  ◆ekt663D/rE :2005/11/21(月) 23:30:09
「……そうですか。」
小沢の動揺に気づいたのか気づいていないのか。それともそもそも気にするつもりもないのか。
ぼそりと川元は呟くと、携帯と入れ違いにポケットから引っ張り出したのだろう、ピンめいたモノをシャツの襟口に引っかけた。
闇の中でそのピンめいたモノからチカッと一瞬赤い光が瞬き、同時に発せられた独特の気配に小沢は胸を押さえたまま顔をもたげる。
もちろん、その独特の気配とは力のある石が発するそれ。

「……………?」
「…ウンバライトって石、ご存じですか?」
表情に警戒の色を混ぜ始めた小沢に、淡々とした口調で川元が問うた。
「……別名をマライアガーネットと言い…かつてはクズ石として扱われていた石。
 でも、正しく磨かれ見いだされたそれは、今はクズ石とは決して呼ばせない高い価値を得るに至る。」
所有者の言葉に誇らしげに呼応するかのように、小さいながらも赤い光は輝きを増す。

「川元君、それは…君の…」
「……ええ。しりとり王の時にスタイリストさんから頂いたんです。」
いや、押しつけられたと言った方が正しいかも知れませんね、と付け加える川元のシャツの襟にあるのは
小さい赤い石があしらわれた、シンプルなデザインのネクタイピン。
その小さな石が放つのと同じ赤い輝きが、川元の右手の人差し指の先端にも点る。
設楽がわざわざ宣言してくれた以上、今夜は何も起こらない…そう信じていた中でのこの川元の行動の意図がわからず、
小沢はゆっくりと立ち上がり、己の石であるアパタイトに意識を向けつつ、警戒するように川元を睨み付けた。

「……まぁ、これはただの戯言…自己満足なので気にしないでください。」
その小沢の態度の変化は川元にも伝わったのだろう。小さく微笑んで右手を胸の高さにもたげる。
「……そう、ただの自己満足です。先にこっちの石を提示する事で、不意打ちを卑怯な行いじゃないと思いこむための。」
小沢に聞こえたかどうか怪しい小声でそう呟くと同時に、ETよろしく赤く輝く指先で川元は虚空にスクエアを描く。
石の力が働いたか、描かれたスクエアはぼやけて消える事なくしばしその空間に存在し続けて。

「……石よ、小沢さんの身体の感覚を、閉ざせ。」
眉間を寄せて川元がそう命じた瞬間、赤いスクエアは一瞬にして拡大しつつ小沢へと襲いかかった。

403 :Phantom in August  ◆ekt663D/rE :2005/11/21(月) 23:31:34
「…………っ!」
色々と考える間もなく本能的に危険と察し、小沢はスクエアを避けようと試みる。けれど。
ここは墓地の細い通路。墓石を蹴散らす覚悟があるのならともかく、左右に大きく動く事が出来ない。
アパタイトを使って瞬間移動を行うにも、キーワードを口に出来るほど二人の距離は離れてなくて。
結局スクエアの一辺が小沢の身体をすり抜けて、小沢はスクエアの中心に捕らえられる形になってしまった。

そしてスクエアに捕らえられると同時に、小沢の全身から力が抜けていく。
以前、赤岡の黒珊瑚で金縛りにあった時のように、身体が思うように動かない。
効果を発揮したためか、徐々に彼を捕らえるスクエアは薄れていくけれど。
立っている事も出来なくなり、蹌踉めきながらゆっくりと倒れようとする小沢の身体を、ギリギリの所で駆け寄った川元が抱き留めた。
石を用いた後遺症だろうか。川元の腕は夏の暑さだけとは考えられない異常な量の汗をかいていて、
その顔色も先ほどに比べると別人のように悪い。

「……すみません。でも、こうしないと守れないモノがあるんです。」
ぼそりと発せられる川元の言葉は、感覚が薄れている小沢の耳に届いただろうか。
今やぼんやりと川元を見上げるばかりの小沢の瞳に、川元の背後に緑色の空間の亀裂が走る異様な光景が反射して映っていた。



404 :Phantom in August  ◆ekt663D/rE :2005/11/21(月) 23:41:34
 川元 文太 (ダブルブッキング)

石:ウンバライト (ガーネットの一種。宝石言葉は「内気、心を奪う素質」)

能力:対象を口にしつつ指で四角を描く事で、何かしらを「閉ざす」事ができる。
 使い方としては扉を閉ざして鍵を使っても開けられないようにしたり、心を閉ざして精神攻撃を防いだり、
 感覚を閉ざして相手を無力化させたりといった感じ。
 自分や何かを中心にして空間を閉ざして相手の動きを封じたり、身を守ったりもできるが、
 その場合は必ず立方体状に空間が閉じてしまう。

条件:空間を閉ざすのは、閉ざすサイズに関わらず一日に一回が限度。
 能力を使う事に同意していない人間の心を封じる場合も消費する力が大きく、
 全体的に能力の多用は出来ない。


今回はここまで。
なお、川元さんの台詞にある「しりとり王」とは関東ローカル番組のSP企画。(↓参照)
ttp://d.hatena.ne.jp/keyword/%A4%B7%A4%EA%A4%C8%A4%EA%CE%B5%B2%A6%C0%EF

405 :名無しさん:2005/11/22(火) 20:20:56
保守

406 :名無しさん:2005/11/23(水) 15:45:51
乙です!
歌唄い さん
陣さんどんどん怖くなっていきますね…
吉田の台詞にもありましたがムーンストーンって女なんですね(笑)

Phantom in August さん
川元さんの行動は設楽さんの計算外な感じですね。
宝石言葉がぴったりですね

407 :名無しさん:2005/11/26(土) 17:01:50
保守がてら

歌唄い氏
陣内が少しずつ狂ってきてますね。吉田の気持ちがよくわかります。
次回は麒麟と対決でしょうか?

ekt氏
設楽の意向に反してまで川元が守りたいものがとても気になります。
ウンバライトの能力も面白いです。

二人とも乙でした!

408 :名無しさん:2005/11/29(火) 21:32:01
保守

409 : ◆8Y4t9xw7Nw :2005/11/30(水) 02:13:22
第九章〜つよさとは〜



山里は片足に体重を掛け突っ立っているだけで、再び攻撃を仕掛けようとはしなかった。
その姿は無防備そのものだったが、動く事さえ躊躇わせる程の殺気が、その周りを取り巻いている。
先程までその口元に浮かんでいた苦笑は消えていた。今思えば最近やけに情緒不安定ではあったが、今日は一段とその傾向が強い。
自分も昨夜からやたらと苛々しているのは自覚しているので、お互い様かもしれないが。
非常階段の途中で休んだ時に、ついでにニコチン補給でもしておくべきだったかと、少しだけ後悔する。
身体に纏わり付くような、不快な沈黙に耐え切れず、山崎は重い口を開いた。
「――でも、随分と回りくどい事するんやね。……あんたの石の力使えば、油断してるとこ後ろから襲えば一発やろ?」
彼の石の力を使えば、手段を選ばなければ人を一人殺す事など造作もないだろう。
自分を階段から突き落とした時のように、追跡の対象に見つかる事なく、すぐ背後に忍び寄る事も出来るのだから。
「……『しずちゃんのストーキングにそこまで頑張れない』、ってのはまぁ冗談として――それで俺が満足すると思う? そんなつまんない事でさ」
昨夜のお返しなのか、ネタ中の台詞を引用して、山里は逆に問い返す。面白い事を考えるのが何よりも好きだという相方らしい、とも思える言葉だった。
「……それもそうやね。あんた、やたらと演出に凝るタイプやし」
「でしょ?」
(でも……もしもあたしを殺せたとして、あんたはそれで本当に満足出来る?)
思い浮かんだその言葉は、口には出さない。
勿論だ、という答えが返ってくるのが分かり切っていたし、それに、その答えが間違っている事も分かっていた。こんな事で満足出来るはずがない。
自分が知っている相方は、己が傷付く事を怖れる余り、他人を傷付けかねないところもあったけれど。
そんな己の器の小ささを自認している癖に、自分の前ではやたらと年上らしく振舞おうと――あるいは兄貴風を吹かせると言ってしまってもいいだろう――していたから。

――まるで、それが自分の役目なのだと言わんばかりに。

410 : ◆8Y4t9xw7Nw :2005/11/30(水) 02:14:43
だからこそ、投げ出したくなったのだろうか。
黒い欠片の力に呑まれた芸人の多くはライバルを蹴落とし頂点に立つ事を望む。だが、山里が第一に望んだのは、自らの相方を殺す事だった。

『ねぇしずちゃん』
『ちょっとしずちゃ〜ん!』
『しずちゃん?』
『しずちゃん』

時には僅かな息苦しささえ感じる程、日常に於いて彼に呼び掛けられる回数は多かった。
けれど自分は、その全てにしっかりと応えてはいなかっただろう。
それはある程度仕方のない事だけれど、彼に――黒い欠片の影響とはいえ――頂点への欲望より遥かに強い殺意を抱かせたのが自分である事だけは間違いない。

一つ一つ、相方を追い詰めたものを知っていく度に、胸の奥深くに積み重なっていく後悔がある。
そして、それに押し潰されれば死ぬ――正確に言えば、向けられる殺意に抗えなくなる――のだとも、どこかで分かっていた。
だから、決して逃げない事を自分自身に誓ったのだ。後悔を断ち切る為の剣の代わりとして。
昨日の夜、気絶している僅かな間に見た夢を思い出す。
融ける事も止まる事もなく、ただひたすら降り積もるものに、深く深く埋もれていく山里の姿が、今も微かに見えた気がした。

余力を考え解除していた石の力を再び発動させ、身構える。全力を出せるのは合計で十分が限度だろう。それまでに決着を着けなければいけない。
ざり、と足元でコンクリートの欠片が微かな音を立てる。
足を踏み出したのは、ほぼ同時だった。お互いに一息で距離を詰める。

――ひゅっ!


411 : ◆8Y4t9xw7Nw :2005/11/30(水) 02:16:03
微かに鳴った風を切る音が、その手刀の鋭さを物語っていた。
首を薙ぐような位置に繰り出された一撃を紙一重で避け、山崎はこめかみを狙ってフック気味のパンチを放つ。
いかにも素人らしい、力任せでやや大振りなものではあるが、その拳の重さを身をもって知っている山里は身を引き、その拳をかわした。
彼は元々余り夜目が効かないはずなのだが――とてもそうとは思えないような、正確に攻撃を見切った回避行動だった。
もしかしたら、こちらの動きをある程度先読みしているのかもしれない。
(……!)
首筋の髪が一房斬り飛ばされたのを感じて、山崎は息を呑んだ。
完全に避けたつもりだったのだが、相手の動きが予想以上に速い。限界まで身体能力を強化し、更に勘を研ぎ澄ませて、ようやく互角に持ち込める程のスピードだ。
最初の一撃は避けたものの、技の空振りは焦りを誘発し、焦りは隙を生み出す。
低い体勢から山里が振るった手刀は、咄嗟に大きく後ろに飛び退いた山崎の脇腹を掠め、パーカーを引き裂いた。
「――っ!」
じわりと血が滲み出す嫌な感触に一瞬眉を顰めたものの、山崎は相手が腕を戻すのに合わせて再び踏み込む。

大抵の事は上手くこなせる癖に、妙なところで不器用で、少し臆病で。その臆病さ故に、誰かに傷付けられる事も誰かを傷付ける事も嫌っていた相方。
けれど今、その目にはっきりとした殺意を浮かべている彼からはその全てが剥がれ落ちていて、それが酷く哀しくて、山崎は唇を噛み締めた。
愚かな程に、一途に、強くなれたら――そんな事を思う必要などないと、本当の強さとはきっとそういう事ではないのだと、今なら言ってやれるのに。

――ごっ!



412 : ◆8Y4t9xw7Nw :2005/11/30(水) 02:18:56
踏み込むと同時に顎を狙って肘打ちを繰り出した山崎の腕と、それを迎え撃った山里の腕が、真正面からぶつかった。小さく、鈍い音が響く。
「くっ……」
強い衝撃と腕の軽い痺れに、山崎が僅かに眉を寄せた。
二人の体格に余り大きな差はないのだが、この時当たり負けしたのは、普段腕力で勝っているはずの山崎だった。
その隙を見逃さず、鋭い刃の切れ味を持った手が首元に伸びてくる。掠っただけでも頚動脈を裂かれかねない一撃だ。
(やば……)
半ば反射的に手を動かしどうにかその突きを逸らすと――完全に逸らす事は出来ず、指先が肩の辺りを掠め、パーカーに小さな裂け目を作った――山崎はそのまま山里の右腕と襟首を掴んでコンクリートの床に引き倒した。
体勢が充分整っていれば、鳩尾を狙って止めの肘打ちを落とす事も出来たのだろう。だが、今の山崎には山里が倒れている隙に距離を取るのが精一杯だった。
硬いコンクリートの床に右肩を強かに打ち付けたにも関わらず、山里はほとんど表情を変えずに立ち上がる。
その様子に軽く舌打ちしながら、山崎は脇腹の傷に手を触れた。他にも数箇所切り傷を負ってはいるが、どの傷も皮一枚程度の薄いものだ。
体勢を整えてすぐさま斬り掛かってきた山里の手を避け、山崎はすっと目を細めた。
斬り掛かる直前、一瞬だけ、山里の足が止まったように見えたのだ――まるで躊躇うように。
強化された運動能力に合わせ、動体視力も上がっている山崎だからこそ気付けた、ほんの僅かな、踏み込みの甘さ。
つまりは――迷い。

――まだ間に合う。

続け様に襲ってきた手刀を、斬られないよう手首を狙って弾き、山崎は自分に言い聞かせるように心の中で呟いた。

413 : ◆8Y4t9xw7Nw :2005/11/30(水) 02:22:46
……なんだか似非格闘小説風になってる気がするのですが、今回はここまでで。
ようやく終わりが見えてきましたので、もしよろしければもう少しお付き合いください。

414 :名無しさん:2005/11/30(水) 22:15:19
8Yさん乙です。
2人の会話がホントにリアルでドキドキします。
続き楽しみにしてます。

415 :Phantom in August  ◆ekt663D/rE :2005/12/03(土) 18:35:42
>>399-403 の続き

【22:17 新橋・居酒屋】

「じゃ、とりあえずこれぐらいで。」
各テーブルに個室完備の居酒屋の一室で、メニューを一通り指定して注文を受けに来た店員にエレキコミックの今立 進は告げる。
同じテーブルについているのは彼の相方のやつい いちろうこと谷井 一郎とアンジャッシュの2人。
それは共演している番組での合同コントの収録上がりにとりあえず一杯でも、というありふれた光景かも知れない。

「……………。」
店員が姿を消すのを見計らって、はふぅと渡部 建は溜息をついた。
「…どした?」
仕事による疲労とは異なる質の疲れをその表情に見せる渡部に谷井は問う。
けれどその答えを聞かずとも、ある程度はその原因もわからなくもない。
「やっぱり、『白い悪意』?」
「……………。」
重ねて問う谷井に、渡部は視線だけでこくりと頷いて返す。
その様子にそれも仕方がないか、と声に出さずに今立は呟いた。

今回突如降って湧いたように現れた、『白』や『黒』はもちろん石と無関係な芸人にまでも無作為に暴挙を起こす存在…『白い悪意』に対し、
そしてそれによって生じた混乱を付いて『黒』が勢力を伸ばさないよう、本職をこなしつつ『白のユニット』中心人物として
対策を講じなければならない渡部達の苦労は、側で眺めて知っている以上に計りしれない物なのであろう。
「せめて正体がわかればこいつに気をつけろーってできるんだけどね。」
メニューをテーブルのサイドに戻しながら今立は小さく呟いた。
被害者達や目撃者達からボチボチ集まってくる情報によれば、その『白い悪意』はフードや帽子などをを目深に被っていて
その顔を見せる事はないらしく。
芸人なのか、それとも芸人に関わる職の人間なのか、それとも石が勝手に取り憑いた一般人なのか。
その正体すら把握できないのが現状で。

416 :Phantom in August  ◆ekt663D/rE :2005/12/03(土) 18:38:05
「ま、被害に遭っちゃった人とかは『白い悪意』じゃないって予想から除外できるけど…」
如何せん元となる若手芸人の数が多すぎる。
こちらもぐったりという形容がよく似合う口調で児嶋 一哉が呟いてテーブルに両肘をつく。

「今ン所は無事だけど…そっちも気をつけろよ?」
「わかってる。ま…それはお互い様だけどね。」
ぼそりと漏れる児嶋からの忠告に谷井が明るい口調…それは別に『白い悪意』を侮っている訳ではなく、
相手の気を楽にさせようという彼なりの配慮からだろう…で答えて八重歯を見せて笑った、その時。
渡部の携帯が不意に電子音を奏でだした。

「…………?」
失礼、と小さく前置きしてから渡部は携帯を取りだし、着信を受ける。
仕事の件だろうか、それとも他の芸人からの他愛もない用件?
料理がまだ何も来ていない事もあり、3人がそれぞれ渡部の方に意識を向けていると。
「え…本当ですかっ?」
相手の用件を聞いていた渡部の表情が急速に険しい物へと変わっていった。
「救急車はまだ? ちょっと時間が掛かる? 良かった。わかりました、ちょうど近くにいるので急いで向かいます!」
口調から余裕が消えていく渡部の言葉に、谷井の表情からニヤニヤと浮かんでいた笑みが消える。

「…何があった?」
「噂をすれば何とやら、かな。D…シアターDに怪我人が運び込まれた。奴に…『白い悪意』にやられたって言ってるって。」
通話を終え、携帯を閉じる渡部にすかさず児嶋が問うと、返ってくるのは渡部の苦々しげな言葉。
「あそことか、Fu-とかラママとか…ある程度知られてる劇場のスタッフの人に奴絡みで何かあったら連絡くれるよう頼んでたんだ。」
心を読むまでもなく、何故そんな連絡が渡部に? という疑問が自然と表情に浮かんでいたのだろう。
エレキの2人に渡部は付け加えるように説明して、座っていた席から立ち上がる。
「そうだったんだ。でも、ここ近くって言うにはDから遠くね?」
一応都内って言えば都内だけどさ…そう問いかける谷井に対し、渡部は小さく笑んで今立の方へ手を差しのばした。

417 :Phantom in August  ◆ekt663D/rE :2005/12/03(土) 18:39:48
「…どうしたの? ってか、何その目。」
一見すれば微笑んでいるように見える渡部の目が、微塵も笑っていない。
追いつめられてるんだなぁ…と改めて口に出さずに呟き、手を差しのばしてくる渡部とは裏腹にわずかに表情を引きつらせながら
今立はどこか確認するように問う。

「Dへのルーラと怪我人へのホイミ、お願いできるかな。何なら好きなゲームソフトと引き替えでも良いし。」
事情を知らない人間からすると、何ゲームと現実を混同しているのだと言わんばかりの言葉を
当然のように口にする渡部に今立は思わず肩を竦めた。
「…やっぱりか。」
予想通りの渡部の要求…協力要請に自然と浮かぶ苦笑い。
「石を使うとしばらくゲームやる気になれなくなるからキツイんだけど…ま、人助けだしね。わかった。」
……って言うか、ここでNoなんて言えるはずねーだろ。
頭を掻いて立ち上がりつつ今立はそう答え、相手の思考と『同調』できる力を秘めた石を持つ渡部に悟られるのを覚悟で内心で軽く毒づけば。
渡部の表情がふっと申し訳なさそうなそれに変わったように思えて。再び今立は肩を竦めてゆらりと立ち上がった。

「でも料理頼んじゃったし、みんなで動いちゃ駄目だよな…。」
渡部と今立に続いて児嶋と谷井も椅子から立ち上がっては見たモノの。ふと児嶋が困ったように小さく呟く。
注文した食事はともかく、少なくともそろそろ飲み物は運ばれてくる頃合いだろう。
「じゃ、オレ様が料理を見張っててやるから、急いで用件済ませて戻ってくるが良い。」
どうしよう、と思わず互いに顔を見合わせる中、谷井が一人ドスンと椅子に腰を下ろして3人に態とらしく偉ぶった口調で告げた。
「もちろん、会計を押しつけられるのは厭だから、財布は預からせて貰うけどね。」








418 :Phantom in August  ◆ekt663D/rE :2005/12/03(土) 18:42:44
【22:12 都内・某TV局(美術倉庫)】

無数のセットや大道具が収められ、木材の独特の匂いが漂う美術倉庫の片隅に一瞬淡い光が走り、空気が震える。
トン、どすどす。
続いて上がった小さな物音の正体は、宙から床に降り立った3人組。

「ン…良かった。石の気配は残ってる。ここで間違いないと思うんだけど。」
軽やかに降り立った男が辺りの空気に漂う独特の感触を確かめるように呟いた。
「確かに一つ二つ…そんな感じがするみてーだな。」
彼の言葉に同意するように、茶髪のスーツ姿の男が眉間にしわを寄せつつ言葉を紡ぐ。
もう一人の黒髪のスーツ姿の男は着地に失敗したようで床に座り込んでウンウン呻っているようだ。
「でしょ? って事だから…早速ここで何があったか調べるよーに。」
そんな哀れな黒髪のスーツ姿の男にニシシと笑い、視線を茶髪のスーツ姿の男に向けて
最初に口を開いた男…堀内は両手を腰の両側にやって告げた。

「調べるようにって言ったってなぁ……話が全然見えてこねーんだが。」
小さく溜息をついて茶髪のスーツ姿の男、くりぃむしちゅーの上田 晋也は堀内を軽くにらみ返す。
「こちとらさっきまで番組収録してたんだぜ?」
「だから俺だって休憩に入るまで待っててあげたんじゃん。」
「まぁなー。いきなりスタジオん中に瞬間移動してきた時はどうしたもんかと思ったしな。」
頬をふくらまして反論する堀内と上田のやりとりに、ようやくもう一人のスーツの男、有田 哲平が割り込んできて。
言葉の内容ほど慌てたとは思えない口調でついさっきの出来事を思い返す。

土田に逃げられた堀内は、『白』の仲間であり信頼できる相談相手でもあるくりぃむしちゅーの2人に
早速土田の件を伝えようとしたのだけれど。
瞬間移動してスタジオに行ってみれば、彼らはレギュラー番組の収録中で到底堀内の話を聞ける状態ではなく。
その堀内の何かを伝えたい様子は上田達にも何となく気づけても、共演しているゲストの面々がベテランの有名所揃いだった為に
自分達から休憩できないかどうかと言い出せるような空気などどこにもなくて。
結局、それから堀内は休憩が言い渡されるまで延々とスタジオ内で待たされる結果となってしまったのだ。

419 :Phantom in August  ◆ekt663D/rE :2005/12/03(土) 18:43:47
「とにかく、駄目元で良いからやっちゃって。」
「駄目元で良いって…一応石を使うと痛い思いするんですけどね。僕。」
こちらの話を聞いているのかいないのか。長い付き合いながら時々わからなくなる相手の物言いに呆れ果てたように
上田はブツブツと文句を呟きながら身につけているチョーカーを服の下から引っ張り出すと、
そこにあしらわれている石…ホワイトカルサイトを右手で握りしめた。

「まぁー…ここに御座います大道具の数々。一般的に舞台装置と同義に用いられる事が多いんですけれど、
 そもそも語源は歌舞伎の用語で大道具方と呼ばれる役職の人に組み立てられたモノを色々省略して大道具と呼んだ事に始まりまして……」

呼吸を整え、表情を真剣なモノに変え。
石がスタンバイ状態に入ったのを確かめてから上田は記憶の中にある知識を口に出していく。
呪文のように流れる言葉に呼応するかのようにホワイトカルサイトは光を放ちだし、それが紡がれ終わると周囲のセットが記憶していた光景が
上田の脳と石にそれぞれ流れ込んできた。

「……くっ」
「どう? 見えた?」
「おい、大丈夫か?」
石を用いた事による反動で痛む身体を押さえながらその場にうずくまる上田に、堀内と有田が駆け寄ってそれぞれ声を掛ける。
2人から発せられた問いかけにそれぞれ答えるようにコクコクと頷いて返しながら。
「見えたぞ…土田の奴……ったく、何を考えてやがるんだ…」
幾度も荒い呼吸を繰り返す中で上田の口からかろうじて呻くような呟きがこぼれ落ちた。
眉間にしわを寄せたまま、2人に説明するために上田は先ほどここで起こった出来事をゆっくりと思い出す。


虚空に作られた赤いゲート。
その中にためらうことなく右腕を差し入れている、土田。
やがて土田は腕を引き、ぐいとゲートから引っ張り出された、それは。
それぞれ見覚えのある若い芸人が二人。

川元とその腕にしっかりと抱きかかえられた、小沢だった。

420 :Phantom in August  ◆ekt663D/rE :2005/12/03(土) 18:55:51
今回はここまで。

あ、投下してから気づきましたが>>417

頭を掻いて立ち上がりつつ今立はそう答え、相手の思考と『同調』できる力を秘めた石を持つ渡部に悟られるのを覚悟で内心で軽く毒づけば。
渡部の表情がふっと申し訳なさそうなそれに変わったように思えて。再び今立は肩を竦めてゆらりと立ち上がった。



頭を掻いて今立はそう答え、相手の思考と『同調』できる力を秘めた石を持つ渡部に悟られるのを覚悟で内心で軽く毒づけば。
渡部の表情がふっと申し訳なさそうなそれに変わったように思えて。再び今立は肩を竦めてゆらりと立ち上がった。

にそれぞれ脳内で修正してください。
今立さんが2度立ち上がってどうする…orz

421 :名無しさん:2005/12/05(月) 23:13:49
保守

422 :名無しさん:2005/12/08(木) 20:54:29
保守。書き手いつもありがとな。楽しみに気長に待ってるから(・∀・)ノシ

423 :名無しさん:2005/12/11(日) 01:40:51
hosyu

424 :名無しさん:2005/12/13(火) 01:16:26
保守

425 :名無しさん:2005/12/13(火) 22:06:30
チュートリアル希望 保守

426 :名無しさん?:2005/12/15(木) 18:05:29
>>425
禿同。保守

427 :名無しさん:2005/12/17(土) 12:48:01
ホッシュ

428 :書き手:2005/12/18(日) 23:29:02
また保守が続いてるなー。
今時期的にもみんな忙しいのかな?師走だし。

429 :名無しさん:2005/12/20(火) 12:49:18
保守

430 : ◆2dC8hbcvNA :2005/12/20(火) 15:56:46
こんにちは。かなり間が空いてしまいましたが、前スレ528の続きです。
ラーメンズ片桐編、流血シーンあり。
次から投下します。

431 : ◆2dC8hbcvNA :2005/12/20(火) 15:57:18
 状況を理解出来るはずはなかったけれど、自らが持っている感情が危惧だということだけは予想
出来た。恐らく面した人全てが眉を寄せる位、冷たい表情をした相手が憎悪を向けている。受け止
めた体に心当たりがあるはずもない。
 コント中で眼球保護膜と称された眼鏡を間を埋めるためだけに掛け直した。後頭部の高い場所で
結わえた、癖の激しい髪を揺らした。粘土から生まれた戯れの創作物を手にしながら片桐が唾を飲
み込む。先に起こることは予想せずとも分かる。
 相方である小林は違う仕事を終えてこちらへ向かっているところだ。お互いが一人だけの仕事を
こなした後だから、当然楽屋には片桐と相手しか存在しなかった。ともなれば必然的に楽屋は狭く、
逃げる道も限られてしまう。案の定出口は相手の後ろだ。
 話し合いで終わる相手では無さそうだが方法はそれしかなかった。片桐は自らの能力が戦いに向
かないことを知っていたし、相手の能力が戦いのために生まれてきたようなものであることも知っ
ている。それでも彫りの深い目を軽く光らせて、いつもは大きく開いている口を小さく開いた。
「何か用ですか?」
 そもそもの話だ。片桐の今日はろくなものでは無かった。
 取材の撮影では羽目を外しすぎてカメラを壊す。気分変換に散歩を始めたら黒猫の大家族が横切
り。それでも興味があるからと手を伸ばしたら、誤解した親猫が死に物狂いで片桐を襲った。ひっ
かかれて破れた服はお気に入りだったし、とにかくもう嫌なことばかりだった。
 大雨が振った後に虹が掛かるように、きっといいことがあるはずと前向きに捉えていたのに。ど
うやら出来事を含んだ雨雲は最後の最後に雷を隠していたらしい。
 目の前に立ついつもここからの菊地は、雷よりも恐ろしい人に見えるけども。
 くだらない考え事が許されるほどの時間が流れていた。問いかけたにも関わらず相手が返事をし
なかったからだ。バナナマンやおぎやはぎのような見知った相手ならよかった。いや、でもそれは
それで悲しい状況なのか?

432 : ◆2dC8hbcvNA :2005/12/20(火) 15:58:46
 新たに生まれた考え事に苦悩した片桐は見境なしに頭を抱えた。もちろん目は強く閉じている。
「小林さんはどこに?」
 質問を質問で返されたことで解放された片桐は素直に答える。
「まだ違う仕事です」
「そうですか」
 菊地はただ目を伏せ。
「……そうですか」
 同じ言葉を噛み締めるようにしてから続ける。
「山田くんはスタッフと打ち合わせしてます」
「はあ」
「お互いの相方が来るまでですね」
「何が?」
「用事を終わらせるリミット」
 相手の右手が動いた。動作だけを感知した片桐は後ろずさるわけでもなく、逆に前に出て自然な
動作で手を伸ばした。もちろん先には出口へと続くドアがある。
「俺は仕事です」
「粘土を放って?」
「そりゃそうだよね」
 ばれて当然か。続く言葉を発する前に場面は動いていた。菊地の手から水が零れ落ちたかと思う
と、水は長くて細い刀のような形状に変わる。後ろに下がった片桐の体が椅子を巻き込み倒してし
まった。大げさな音から更に逃げるようにして粘土が置いてある机に近づき、盾のように頼って顔
だけを菊地に向ける。

433 : ◆2dC8hbcvNA :2005/12/20(火) 15:59:21
「どうして俺なの?」
 純粋な疑問だった。片桐は白に属してはいないし、黒の邪魔をしているわけでもない。むしろ黙
認しているのだ、逆に感謝されるべきではないのか。いや、感謝はないにしても。
 変わらずに暗い目を光らせる菊地は少し間を明けてから答える。
「八つ当たりかもしれません」
「俺に八つ当たる理由は?」
「小林さんの相方だから」
 片桐が珍しいものを見たように目を見開いた。相方である小林が何をするにもよく考えてから決
める性格であることは片桐が一番よく知っている。だから黒に入っていようとも、恨みを買わない
ように上手くやっているはずだった。何か手違いでもあったのだろうか。
 菊地が薄い目を荒げた。刀の形をしていた水が伸びて真っ直ぐ飛んできた。避ける余裕がない位
に唐突だったせいで痛みに気づくのが遅れた。
 よく見れば、腹部から見たことがない量の血が滲んでいる。
「嘘だろ」
 いくら黒だと言っても犯罪になるような大けがはさせない。そういっていたのは黒である相方の
小林だったはずなのに。血が滲んだ腹部を抑えながら冷たい相手を見上げる。一瞬にして悟った。
菊地は何かが壊れている。
「それ、俺もやったんです」
 それというのが何を表しているか分からなかった。額に浮かぶ脂汗の感覚だけが妙にリアルで、
熱くなってきた腹部を押さえ込むのに精一杯だったからだ。返事が無いことに腹を立てたらしい菊
地が近づいてくる、手を翳す、激しい息を繰り返していた片桐が目をきつく閉じる。

434 : ◆2dC8hbcvNA :2005/12/20(火) 15:59:54
 予想していた展開は無かった。脂汗は変わらずに冷たかったが、押さえ込んでいた痛みの種類が
違っていることに気づく。恐る恐る手を離せば、血で汚れた服が横一線に破れているだけで、傷口
が無視出来る位に薄くなっていた。
 黙って相手を見やることしか出来ない片桐に対し、菊地が自嘲的な笑みを浮かべた。それは何か
の引き金になったようで、すぐに聞かせるような独り言が爆発する。
「おかしい。俺は許されないのに、何で小林さんは許されたんだ。俺よりも小林さんの方が上にい
るはずなのに、俺は……」
 そこから先は聞き取れなかった。聞き取れていても何を話しているかは分からなかったはずだ。
独り言はだんだん小さくなり、やがて考え事に変わり、部屋は静寂に満たされる。菊地の目が何も
見ていないのを確認した片桐は机上に置かれていた粘土を手にとり、人生で一番と思われる早さで
作品を作り上げた。いつもの個性を出した創作物ではなく、その状況から逃げるためだけに作り出
したものである。
 黒光りした拳銃だった。銃器マニアではないので所々おかしなところがあるかもしれないが菊地
にも分からないだろう。ただ目を見開いた片桐が、左手では無意識に腹部を抑えながら、偽造した
銃を上げて菊地の顔に向ける。
 考え事の世界から帰ってきた菊地が片桐を見下ろした。銃を向けられているにも関わらず眉一つ
動かさない。出来るだけ恐怖を隠していた片桐の手が震える。当たり前だ、痛みを体験させられた
ばかりなのだから。
「それを小林さんに向けるつもりは?」
 すっ頓狂な質問をされて戸惑う。そんなことがあるはずもない。睨み付けるだけで答えたら菊地
が納得したように呟く。

435 : ◆2dC8hbcvNA :2005/12/20(火) 16:00:29
「それが普通なのかもしれない」
 そして自分から近づくように頭を下げてくる。銃口は菊地の眉間に近づけば、菊地の目も片桐に
近づく。
「それもいいかもしれない」
 同じような言葉を続けていたが片桐には理解不能だ。急に動いた菊地が偽造した銃を握った。引
き金を引いても意味がないのに、片桐は人指し指に力を込めた。当然銃だったものは粘土に戻り、
指の形で歪む。
 初めて菊地の顔に興味が浮かんだ。作品では無くなってしまった粘土を取り上げて念入りに観察
している。数秒してから粘土を返された。見下ろしていた菊地が初めて片桐と目線を合わせる。
「作って欲しいものがあるんですけど」
 逆らう気力も失せていたし、しっかりと恐怖が植えつけられていたため言われた通りにする。楽
しそうにそれを眺める菊地から先程まであった殺意に似た危ない気配は消えていた。何かを描いて
いるからかもしれない。黙って作り続けているのが怖くて、相手を探る理由も込めて質問する。
「用事って何だったんですか」
「え?」
「終わらせなきゃいけないっていう」
 菊地が水を作り出す前、用事を終わらせるリミットがあると確かに呟いていた。当の本人は忘れ
てしまったのか、ただ首を傾げるだけに留まっている。答えの無い質問は新たな静寂を作り出し、
同時に粘土が目的通りのものを作り終わっていた。仕上げをしてから菊地に渡す。
「すごいですねえ」
 少なくとも片桐には素直な賞賛に聞こえた。驚いて目線を逸らし、数秒間辺りを見渡す。落ち着
いた状況になったおかげで逃げ道を探す余裕が出てきた。

436 : ◆2dC8hbcvNA :2005/12/20(火) 16:01:01
「持っててください」
 渡したはずのものを返された。受け取るしか無かった片桐が手を伸ばすと、少し重くなった気が
する。それを使用されなかった粘土の横に置いた。解放されるかもしれないと甘い期待を抱いたが、
倒れたままだった椅子を立て直す菊地を見て失意がちらつく。
 どうやら人を待つつもりらしい。それがどちらの相方かは分からなかった。来たところで何が出
来るかは分からないにしても、片桐が望むのは自らの相方である。最善の来客は何も知らないスタッ
フだが、ある程度の対策をしなければ楽屋で騒ぎを起こそうなどと思わないはずだ。
 自分で何かをしなければいけない。けれど、恐怖心は拭いきれそうにも無い。初めて日常が恋し
くなる。
 閉められたドアが軽くノックされた。菊地に促された片桐が軽く返事をすれば聞き慣れた声が届
いてくる。酷く疲れたような響きは最近ついた癖のようだった。無防備な素振りで開いたドアの向
こう、最初に訪れた表情は驚愕で。
「何してるの?」
 辛うじて出したような疑問はやがて怒りに変わった。片桐の腹部で黒くなり始めている血液を凝
視してから、見たこともないような顔をした小林が菊地を睨み付けている。同時に鞄からノートを
取り出していた。
 一連の動作を見ていた片桐は思う。止めろよ賢太郎、多分もう無理だ。口には出さなかった。出
せなかった、というのが正しいかもしれない。
「仁に何した?」
「シナリオはどうなってますか?」
「答えろ」
「載ってるでしょう」

437 : ◆2dC8hbcvNA :2005/12/20(火) 16:01:31
 小林がノートを凝視する。しかし表情は変わらない。
「くそくらえだ」
 珍しく直線的な悪態をついた。載っていなかったことは片桐だけが悟っていた。小林のことだ、
載っていたなら二回も読み返すなんて無駄なことはしない。
「いつも違うことをする」
 小林がシャーペンで菊地を指す。菊地は少し笑って立ち上がる。隠れていた怖い感情が部屋に満
たされていった。片桐にはただ見守ることしか出来なかった。机上に置かれている作品も形だけで
何も役に立たない。
 新しいシナリオを書くために小林がシャーペンを下ろした。菊地の指から放たれた水がシャーペ
ンを弾き飛ばした。高価なシャーペンは床とぶつかって重い音を立てる。
「勝てないことは知ってますよね」
 追って響いたのは不自然な位にゆっくりな菊地の口調だ。小林はただ睨むだけだったが十分答え
になっていた。しかし菊地は笑うわけでも無く、真顔のまま手を翳す。向けられた手の先にいるの
は片桐だ。目を見開く前に慣れた衝撃が走る。
 ああ、さっきと同じか。漫画だったら完全にやられ役のキャラだろう。現実を諦めた片桐は腹部
を抑えながら違うことを思う。倒れ込む前に作り上げた作品を見る。何故か上手く出来ている気が
する。
 小林が膝を折って片桐の名を呼ぼうとする。大きく上がった喉仏の近くを水の線が通る。小林は
目を見開き菊地の方を向いて何かを叫ぶ。お守りのように握りしめていたノートが宙に浮く。

438 : ◆2dC8hbcvNA :2005/12/20(火) 16:02:06
「山田くんに同じことをされたんだ」
 一瞬、全てが止まった。浮いていたノートだけが重力に従って落ちていく。左右対象に広がった
ノートがシャーペンの横に落ちる。開いたページに小林以外が読めない文字が浮かんでいる。
「何でそっちは許されたんですか」
 初めて菊地が人間らしい表情を浮かべた。はっきりと眉を寄せ、母親を失った少年のような顔を
した。何となく事情を悟った片桐が思う。許したせいで最悪の自体を招くなんて。
 小林が少し動くだけで菊地が水を飛ばす。それに構わず近づいていく背中を片桐が眺める。無理
なのは知っていた、腹部は熱くなる。
 黒に属している二人の距離が近くなった。急に動きを速めた菊地が水でナイフを作り、小林の首
に押しつけた。手の位置はそのままに、目線だけを片桐に投げてくる。大きく息を吸った。
「なんで片桐さんは許したんですか?」
 テレビで見るような高い声だった。何で、と言われても今の片桐には考えられない。しかし答え
をいう必要は無かった。言う暇が無かったからだ。
「少なくとも騙されてたわけですよね? 山田くんはそれを怒ってた。なら片桐さんも怒るのが普
通じゃないですか。それとも、許すことしか出来なかったんですか?」
 訛りを隠しきれていない疑問が続いたからだ。片桐は体を横たわらせたまま話を聞く。
「ただ諦めてるだけじゃないですか。それに、怒るべきことはたくさんありますよね? 今こうなっ
てるのも小林さんがいるからですよ。俺は片桐さんを恨んでない」
「うるさい」
 短く低い声は小林だ。威圧感を出した演技だった。小林は追い詰められると演技に頼るときがあ
る。知っていた片桐は床に流れる血液を思う。
 菊地は小林と目を合わせないまま続ける。

439 : ◆2dC8hbcvNA :2005/12/20(火) 16:02:37
「この人は許すだけで終わるようなことをしてない」
「黙れ」
「たくさんの芸人がこの人の掌に乗ってるのに。何人も犠牲になってること、知りませんか?」
「頼むから」
「それでも許せますか?」
 小林がゆっくり振り返る。怯えたような表情を作り出す。いつか深夜番組で見たような余裕のな
い表情。演技ですら忘れた素の表情。
 片桐は思う。低い位置から見上げた空は澄んでいた。ゆっくり動く雲は楽屋の凄惨さを知らない
まま泳いでいる。どこかから風が吹いている気がしたけれど、いつも反応する髪は揺れなかった。
弱々しくなった感情の中で確かに流れた文章。
 裏切らないさ。
 怒りすら浮かべない無表情でいた片桐は床に流れる血液を思った。違った種類の無表情を取り戻
していた菊地が空いている手を翳す。数秒して腹部の傷は消え、痛みもどこかへ飛んでいったが、
横になったままの片桐は動かない。
 菊地が水のナイフを下ろした。立ち尽くしたままでいる小林と擦れ違い、机上にあった作品を手
にする。それを片桐の顔の前に置き、小さく呟く。
「それで小林さんを撃ったら終わりにします」
 置かれたのは擬態した銃だ。菊地はこれが力を持たないことを知らないのだろうか。知らなかっ
たとしても、指の形にへこんだ銃を見たなら予想は出来るはずなのに。真意が分からない。それで
も片桐は体を起こす。立っている小林と目を合わせたが行動には移さない。ここで撃ったら外傷は
なくとも、小林の何かを壊してしまう気がしていた。

440 : ◆2dC8hbcvNA :2005/12/20(火) 16:03:08
 数秒沈黙が流れる。次の瞬間、誰かの携帯電話が鳴る。画面を確認した菊地が動揺を見せた。数
秒間動きを止めていたが、やがて慌てたように電源を切る。怯えたようにドアを見ていた。どこか
らか足音が響いてきた気がする。
「早く終わらせてください」
 冷静さを装った菊地が行動を急かした。待っていればいいのだろうか、あまりいい方向には進ま
ないだろう。小林のシナリオからは大幅に脱線しているはずだから判断は片桐だけに委ねられる。
「俺は平気だから」
 背中を向けたままだった小林が振り返った。顔には諦めたような微笑をたたえている。無理やり
細くしたような目を片桐に向けて小さく手を広げる。
 誰かがドアをノックした。菊地が震えたが片桐には関係が無い。鍵が掛かっているせいで中には
入れないらしい。何故か全てを拒絶するような風音が聞こえる。小林はただ笑う。
「もう終わらせよう」
 片桐が擬態した銃を手にする。いつもと感覚が違う気がしていたがどうでも良かった。地上の地
獄に似たこの状況から抜け出せるなら。
 閉ざされていたはずのドアが開いた音がした。そこにいたのが誰なのかは確認しなかった。引き
金に掛けた人指し指に力を込める。幼い頃に聴いたような水音がある。
「やめろ!」
 第三者が声を張り上げたのと出てこないはずの銃弾が小林の鳩尾に刺さった。銃弾ではない、薄
く流れた血に水が混ざっていた。結論は近い場所にあるはずなのに出てこない。考えられなかった
からだ。

441 : ◆2dC8hbcvNA :2005/12/20(火) 16:03:42
「嘘だろ」
 先程と全く同じ言葉を吐く。崩れる小林を受け止める。風を引きつれて駆け寄った第三者が手を
翳した、撃った傷が薄くなっていた。しかし小林は表情を失ったまま動かない。
「これでおあいこですね」
 唯一菊地だけが救われたような表情をしていた。相方のはずの山田がはっきり敵意を向けている
にも関わらず、だ。事情を知らない片桐には分からない台詞だった。小林は何も教えてくれなかっ
た。
 正座のような形で放心する小林の耳には何も届いていない。味方同士のはずなのに言い争う菊地
と山田の表情はどこか逸脱している。決してあってはならない状況の中で残されてしまった擬態さ
れたものを持ちながら呟く。
「お前らおかしいよ」
 言い争っていた二人が片桐の方を向いた。二人の目線を受けた片桐がまた呟いた。
「黒って、何なんだよ」
 一番知りたかった疑問を答えられる人がいるわけもない。第三者だったはずの山田が少し考え込
んでいた。やがて関係者の表情に変わり、答えるかわりに小林を見やる。
「黒?」
 黒同士で知らないことあるのか?
 山田は目線だけで菊地を止めた後、話が出来るか分からない小林の前で屈んだ。菊地とは違い人
間らしい目をしていたがやはりどこか怖くて、隣で見ていなければならない片桐は一瞬だけ目を逸
らす。その間に山田が口を開いている。

442 : ◆2dC8hbcvNA :2005/12/20(火) 16:04:13
「お前が上司か」
 また訳が分からなくなった。山田は睨んだような目つきにかわり、ようやく顔を上げた小林と目
を合わせる。一秒と少し時間が止まり、動き出す。
「もう俺達に関わらないでください」
 こっちの台詞だ、咄嗟の感情で片桐が拳を握るが動き出しはしない。後ろで菊地が怯えているの
も怖かったし、小林が何か言いたがっているのが分かったからだ。小林はただ弱々しく顔を上げて
呟く。
「俺からは、もう関わらない」
 山田が立ち上がる。菊地の方を向いて、後はお前次第だ、と意志を投げかけてから楽屋を去った。
残ったのは動けない片桐と血の生臭い臭い、落ちているノートとシャーペンを食い入るように見つ
める長身の男だけだ。急にノートを持ち上げた小林は乱雑に椅子に座り込み、囚われた目つきで自
動筆記を始める。数分してから動きを止めて内容を読み出し、一回だけ声を上げて笑ったあと、泣
きそうな顔を伏せて隠した。ポケットから取り出された黒い石が机上に転がる。
「何もしなくても勝てるんだ」
 右手で頭を抱えた小林がまた笑う。肩を震わせているから分かった。肩を震わせる理由は二つあ
るが、もう一つの方の理由だとは考えたくもない。小林が机上の石を握る。
「これがあれば帰ってくる。彼は分かってない、事情を持たない黒はいないのに」
 片桐はただ独り言を聞く。手にしていた物をようやく離したら、床と当たってプラスチックのよ
うな音がした。

443 : ◆2dC8hbcvNA :2005/12/20(火) 16:04:59
「俺だって」
 操られていない水の気配がある。
「彼がいないなら」
 相方がもう一つの理由で肩を震わせている姿など見たくなかった。知らないふりをしてやり過ご
そうにも血に塗れた服では外に出られない。事情を深く覗かないことだけを心がけて、小さい窓か
ら外を見た。雲は変わらずに流れていたし、鳥はいつもの飛び方で羽ばたいていた。様々な液体で
濡れた部屋だけが異常だった。





 変わらない昼の空をあれから何回眺めただろう。何かを捨てたらしい小林は以前と変わらない態
度で仕事に望んでいたし、片桐自身もあまり変化を見せないように心がけた。ただ一つ、粘土で銃
を作ることはしばらく無い。
 小林のいる楽屋へ戻る途中、黒い欠片を飲み込んでいる菊地とすれ違ったこともある。震えたが
平常心を保った片桐は菊地の表情を見て、小林が呟いていたことを何となく悟ることが出来た。振
り返って細すぎる背中を見送るが声を掛けることはない。
 深く黒を追求する気は無かった。小林は隠したがっているようだったし、知ったらいけないこと
も含まれているのだろう。近くの人も黒に属しているのだろうか。小林と共犯のような形なのかも
しれない。いつもそこまで考えてやめる。
 たまに雨が降ることはあっても空は変わらないし、仕事も減らない。家では温かい家族が待って
いる。それ以上を望むとしたら何がある? 自問自答してやっと知った。
 日常は帰ってきていた。けれど、既に形を変えてしまっていた。日常として歌っていたことは過
去になっているから戻らない。
 夢になった過去はもう、戻せない。

 End.

444 : ◆2dC8hbcvNA :2005/12/20(火) 16:05:57
4話続いた話はこれで完結になります。
皆さんが書いた話に影響があるなら全て番外編にしていただいて結構です。
読んでくださった方、有り難うございました。

445 : ◆1En86u0G2k :2005/12/21(水) 01:24:52
>>431-444
乙です!それぞれのギリギリした感じが切なくて苦しい…
みんな何かを背負ってるんですね。

こんなかっこいい話が載った後に恐縮なんですが、
エレキ今立さん絡みの短い話を考えたので投下させていただきます。

446 : ◆1En86u0G2k :2005/12/21(水) 01:28:19

 ☆ トゥインクルスター ☆

その日、エレキコミック・今立進は朝から上機嫌だった。

左足の靴紐が何回となくほどけても、目の前で電車が行ってしまっても、レジ待ちで強引に自分の前に人が割り込んできても、
その買い物の結果財布の中に1円玉がやたら増えようとも、怪訝な顔の相方・谷井に顔に締まりがないと指摘されても、とにかく、彼のテンションは高いままだった。

なんたって翌日には恒例の「ゲーム大会」が控えている。
それは、今立を筆頭としたゲーム好きの芸人同士が集まって、舞台上でひたすら古今のゲームに興じるというオールナイトのイベントのことだ。
はたしてそんなものに入場料を取っても大丈夫かと最初は思ったけれど、やってみた限りでは観客もなかなか楽しんでくれたようで、
以来時間と余裕とメンバーの予定が合った時には開催されるそのイベントの日が訪れるのを、彼はずいぶん前から待ち望んでいたのだった。



447 : ◆1En86u0G2k :2005/12/21(水) 01:29:34
それぞれの仕事を済ませた後参加メンバーが集合し、軽い打ち合わせと最終確認、ついでに飲み会。
あまりの嬉しさにやや飲み過ぎてしまった今立はメンバーの一人、東京03・豊本明長と談笑しながら夜道を歩いていた。

「もう帰ったらすぐ寝ようと思ってさ!明日のモチベーションを高めとかないと、」
「ダチくんもう十分だと思うけどなあ」
「こんなもんじゃないよ俺は!」

酒のせいでさらに上がったテンションを抱え、駅へ続く道を曲がる。そこからだと少し近道になるのだ。
細い路地で街灯の数も少ないようだが大の男二人、特に怖がる理由もないだろうと思いつつ。
だが今立は大事なことを忘れていた。
彼らの日常が今はすっかり様相を変えていて、なんの落ち度がなくとも不意に襲われる可能性を十分に秘めていることを。

「………え、」

気が付けば前後の道をいかにも怪しげな男達に塞がれていた。


448 : ◆1En86u0G2k :2005/12/21(水) 01:31:33

前に3人、後ろに5人。

その中に見知った顔はなかったし、一様にぼんやりと曇った目をしていたからおそらくは、
黒側の末端を構成する超若手の面々が上の思惑で動かされているのだろう。よくある話だ。
自分の石に目立った変化は感じられないので相手が石を使った攻撃をしてくることはなさそうだが、
恵まれた体格と腕力のありそうな男が多いのが気にかかる。

高まってゆく緊迫感とは対照的に、道に沿って続く植え込みには大小のイルミネーションが張り巡らされ、チカチカと陽気に点滅を続けていた。
家主の趣味なのだろうか、白に青に水色に色を変えて輝く様は光が行く先を先導してくれているようで、こんな状況でなければなかなかロマンチックな雰囲気だったのかもしれない。

(さて、どうしたもんかなあ)

豊本は眼鏡を中指でくい、と押し上げて小さくため息を吐いた。
この陣形と場所では少々のすったもんだは免れそうにない。
しかも自分の石は少数へのかく乱が精々で、こういう状況では基本的に無力だ。
となると今立に頼ることになるのだが、彼が能力を使ったあとの代償と明日の予定を考えるにそれはちょっと言い出しにくい希望である。

(みんなでまとまって帰るべきだったかー…闘えそうな人もいたし…)

不注意を悔いたものの後の祭りだった。他の選択肢は登場しそうにない。
仕方なく隣の様子を伺うと、人工的な光に頬を照らされた今立が酔いの回り切った目で前方を睨み付けたまま
(だから残念なことに威圧感には欠けていた)淡々と言葉を並べはじめた。


449 : ◆1En86u0G2k :2005/12/21(水) 01:34:12

「…あのねぇ豊本くん、俺ものすごく楽しみにしてんだ、明日の」
「うん、知ってる」
「なんだったら最近のアンラッキーを全部笑って流せるぐらい」
「ああ…さっき居酒屋でダチくんの頼んだのだけ3連続で来なかったけど全然笑ってたもんね」
「…メイン主催者がゲームにひとっつも触れないってどう思う?」
「超不憫」
「………」

その時豊本は確かに今立の目が据わるのを、見た。


石が震える。
やはり自身の石とそれぞれの身体能力で突破するべきか、そう考えはじめた豊本の思考が思わず途切れた。

(…え、ダチくん?)

この共振の元は間違いなく今立だ。しかもかなり、攻撃的な。
冷静に考えたなら明日の為に少しでも使用は控えるべきなのだが、酔っているせいか本人曰くの『最近のアンラッキー』が相当溜まっていたのか、
こんな不条理な形で自分の楽しみが妨害されることに対し彼は相当腹を立ててしまったらしい。
気の毒だとは思いつつ、この怒りが下手に拡散するとやっかいなので今立に全てを任せることに決めた。
−でも確か、彼の能力には制約があったはず…


450 : ◆1En86u0G2k :2005/12/21(水) 01:35:09

「…イオナズン打ちてえ…」
「いや危ないから」
「じゃあメテオ…やっぱメラゾ−マ…いや団体だからべギラゴンの方が…」
「殺す気だねえ。全部却下。てか無理でしょ?そういうの」

そう、彼は怒りを発散できるような攻撃の能力は使えないのだった。
どうするの?という豊本の視線を感じ取ったのかどうか、今立は不意に「上手く避けてね」と言い放つと、傍らできらめく星の形をしたイルミネーションを引きちぎり、真上に投げた。
電力を断たれたそれは当然瞬時に輝きを失い、ただの透明なプラスチックに戻る。
しかし、その星が重力に引かれはじめる前に、今立のシャツのポケットから眩く白い光が溢れた。

「………!!」

途端に前後の集団がざわめき、距離を詰めようと駆け寄ってくる。
何か効果的な能力を発揮される前に数で押し切り、石を奪ってしまおうという考えだったのだろう。
しかし彼らの手が今立に伸びる寸前、ウレクサイトの白光はひときわ強く瞬いたかと思うと、シュン、と真上に移動した。
打ち上げられた先には落下してくる星型のプラスチック。

−光が吸い込まれる。造りものの星が再び、輝きを取り戻す。

キラキラと光の粒をまき散らしながらゆっくり落ちてくるその星にはなぜか懐かしいような既視感があった。
そう、確か、それを取ればどんなピンチも切り抜けられる…

「…無敵のスターだ、」

豊本が呟くのと星の光を身に纏った今立が前方の集団に向かって体当たりを仕掛けたのは、ほぼ同時。




451 : ◆1En86u0G2k :2005/12/21(水) 01:35:52

「……っ、はあ…多分この辺やと思うねんけど…」

今立の石が光ってまもなく、その場に駆け付けた男がいた。アメリカザリガニ・平井善之だ。
同じくゲーム大会の参加メンバーであり飲み会のあとコンビニに立ち寄っていた彼は、黒い欠片と憶えのある石の気配がどこか近くで弾けるのを感じ、何やらよからぬことが起きたのではないかとその気配を追いかけてきたのだ。
戦うことも考えて咄嗟に買った小さなミネラルウォーターのボトルを片手に弾んだ息を落ち着かせ、路地に踏み込む。しかし平井は、「うわ、」と思わず声を漏らして足を止めてしまった。

視線の先で若い男が、勢いよく宙へ吹っ飛んでいく瞬間だったから。

「 へ ?」

事情を把握できずその場に立ち尽くす間に、その男は派手な音と共に道路に落下する。
気付けば似たような雰囲気の男達がすでに幾人も、その場に折り重なって倒れていた。
ただ一人立っているのはこちらに背を向け肩を上下させる人物−なぜか漫画の特殊効果のように身体の周囲にキラキラと星を散らせていた−で、その背格好からしてそれはつい数十分前まで一緒だった今立に違いなかった。

「−今立、くん?」
「…やっちゃったぁ………」

呼び掛けに振り返った今立はとろんとした目でどこか悲しげに呟くと、ゆっくりその場に崩れ落ちる。
−静寂。

「…何やったんやろ…」
「…………あ、終わった?」

後には展開に追い付けないままの平井と傍らの電柱の陰でなんとか嵐をやり過ごした豊本だけが残された。



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